APSP第21回定例セミナー

2019/08/20

APSP第21回定例セミナー

地方には、未だに活用しきれていない魅力的な資源が無数に眠っています。それらは、人や地球、地域に配慮があるソーシャルプロダクツを開発する上では、強力な武器になる可能性がある一方で、生活者にとっての価値にまで結び付けることに成功している事例は、決して多くありません。

そこで今回は、ソーシャルプロダクツ・アワード2018において、未活用地域資源の利用や、自治体との連携といった点で高い評価を獲得し、国内部門の大賞に輝いた企業をお招きし、商品開発の経緯や、地域資源や技術をどのように生活者にとっての価値に結び付けたのか等について、具体的なお話を伺いました。

今回のセミナーは専修大学商学研究所との共同開催となり、講演会場にはソーシャルビジネスに興味のある学生や研究者、実際にソーシャルプロダクツを扱う企業の担当者らが多数に集まり、講演の後には活発な質疑応答が行われました。

 

【タイトル】 「もりのともだち」開発を通じた早生樹材活用の取り組み

~技術力×デザイン×発信力で生かす地域資源~ 

【講演者】 チエモク株式会社代表取締役 三島 千枝 (ミシマ チエ)様

チエモクは、札幌で北海道産の木材を活用した食器やカトラリー、雑貨などを製作しているクラフト工房です。紆余曲折を経て、2008年に設立、今年で10周年を迎えました。私は、大学卒業後、百貨店に就職しましたが、モノを売るよりも作りたいという想いから2年半で退職し、父の会社であった木工の家具工場にて、家具職人として修業を積みました。修行を重ねるうちに、家具だけではなく、端材(北海道では棒っこと呼ばれる)を活用したチャームやストラップなどの雑貨制作も手掛けるようになりました。その中でも、特に人気を博した商品は、黒板消しの形をした携帯クリーナーストラップでした。小さな黒板消しを模したストラップで画面を拭くことができるという遊び心が、生活者の的を射たのかもしれません。同商品は、寝る間も惜しんで制作しなければ、注文に追い付かないほどの人気商品となりました。

ヒット商品を産み出したことをキッカケに、チエモクとして独立を果たし、食器類の製作にも力をいれていきます。木製食器は、料理が映えると感じていたからです。その一方で、木製食器には乾いた食べ物しか入れることができない、汁物には使用できない、手入れが面倒といった負のイメージが生活者の中に存在するという現実にも直面しました。そこで、木の風合いの良さを活かしつつ、使い勝手も良く割れる心配のない食器を制作するために、コーティング加工技術などを研究し、「ガラスコート」というコーティングを施すことで、生活者の負のイメージをも払拭できる高い品質を実現しました。具体的には、汚れや色移りにも強く、手入れも不要、さらには劣化もせずに半永久的に使用できるというメリットがあります。トマトソースのスパゲッティや汁物などを入れたとしても、通常の食器のように洗うことができる使い勝手の良い木製食器を完成させることができたのです。2013年には、札幌市内に直営の販売店をオープンさせました。同店舗は木製食器の良さを発信できる場、そして何よりお客様とのふれあいの場としての重要な役割を担っています。

あらためて、木製食器の安全性や耐久性などの良さを見つめなおした時、子供の使用にこそ適しているのではないかと考えつきました。さらに、木製スプーンを購入して頂いたお母さんから、子供用の食器も作ってほしいとの声もあがっていました。そこで、子供向けにスプーンとうつわのセット販売を検討していたところ、たまたま下川町から、地元産の木材を活用した新商品開発の打診を受けました。これまでは自分たちだけで制作していましたが、これをキッカケにして、グラフィックデザイナーの方や、地元の林業従事者などとも協力しながら、事業を展開していくようになります。その結果、バリューチェーン全体で地域産業の持続性に貢献する事業構造と、思わず手に取ってしまうような可愛いデザインの「もりのともだち」

※写真(ソーシャルプロダクツ・アワード2018「国内部門 大賞」)が完成したのです。

持続性というキーワードについて、もう少し詳しく述べましょう。下川町は、循環型森林経営を行なっています。具体的には、通常の林業のように森林を一気に伐採してしまうのではなく、森林を60に分割して考え、60分の1ずつ伐採と植林・育成を繰り返す持続可能な仕組みです(すなわち、ちょうど60年で循環します)。しかし、その取り組みには木材を活用した商品がどんなに売れたとしても、原材料の供給量を増やすことはできないという課題もありました。「もりのともだち」のような高付加価値商品を産み出すことは、その課題を解決することにつながるため、地域の企業(チエモクや林業従事者など)や自治体が一体となって取り組むことが出来たのです。

さらに、「もりのともだち」には、これまで紙以外の用途に乏しかったハンノキという早生樹(成長が早く50~60年程度で大木になる)を材料に活用しているという特徴もあります。北海道産の木材の樹種で人気のあるイチイやサクラ、マカバなどは主に天然林に生えており、伐採してしまうと、また種から成長するまでに150年以上かかります。できるだけ自然の恵みを伐採したくないという強い想いが、ハンノキという未活用の地域資源を商品化にこぎつるための原動力になりました。ソーシャルプロダクツ・アワード2018で大賞を受賞することができたとはいえ、ハンノキはほとんど需要がなく、林業従事者からもチエモクだけのためにハンノキを手配したがらないため、費用面で商品の継続展開にはまだ課題があります。現在はクラウドファウンディングなどにおいて、発信し、「もりのともだち」シリーズのうつわはすべてハンノキを使用するという大きな挑戦をしています。これからも、チエモクは様々なパートナーと協力し合いながら等身大で活動を展開し続けます。

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