APSP第23回定例セミナー

2019/08/20

APSP第23回定例セミナー

つくり手の想いや、人や地球、社会への配慮とこだわりがこめられたソーシャルプロダクツも、実際のマーケットでどのように評価されるかは手に取る人の視点や考え方次第です。

モノが溢れて類似化する今の時代において、選ばれる商品となるためには、戦略的な価値創造や差別化などの工夫がかかせません。

そこで今回は、マーケティングの専門家である当協会会長の江口泰広(学習院女子大学名誉教授)より、「戦略的価値伝達の視点」についてお話させて頂きました。

 

【タイトル】ソーシャルプロダクツとブランド戦略 〜消費者は何を購入するか〜

講演者 】学習院女子大学名誉教授/ソーシャルプロダクツ普及推進協会会長 江口 泰広

 

ソーシャルプロダクツには、想いが込められて一生懸命作られた魅力的な商品が沢山あります。しかしながら、社会的な目的や取り組みだけに気を取られ、商品としてどのように市場で評価されるか/どのように販売するかといった点まで十分に意識されていない商品も少なくありません。

 

通常の商品もソーシャルプロダクツもひとたび市場に出れば、あらゆる商品との競争に突入します。競合商品との競争において「社会的に良い取り組みをしているのだから、認めてもらえるであろう」という発想では、生き残ることは叶いません。むしろソーシャルプロダクツの方が、通常の商品よりも遥かにセンスや完成度が高いといった評価を獲得する必要があります。

 

基本的かつ洗練されたマーケティング活動が実践されなければ、ソーシャルプロダクツの市場での地位確保は難しいかと思います。そうした意味で、本日はソーシャルプロダクツが選ばれる商品になるための「戦略的価値伝達の視点」についてお話したいと思います。

 

<競争の本質的な意味>

自由資本主義社会の基本は“競争”です。市場で評価され、選ばれる商品になるということは、競争に勝つことに他なりません。ではなぜ、現代は競争が激しいのでしょうか。それはモノが溢れ、あらゆる商品が類似化しているからです。例えば、フェアトレードのコーヒーやチョコレートなども沢山市場に出回っていますが、単に途上国の支援につながりますといったメッセージだけでは訴求力に欠けます。

 

では、ソーシャルプロダクツに取り組む企業は、何をするべきなのでしょうか。それは「脱」類似化、すなわち差別化を図ることです。差別化の本質は、“戦わないこと”にあります。それは、競争のある中で「他社との違いをつくること」で実現することができます。

通例多くの企業は競合商品よりも優れた商品を作ろうとしがちです。しかし、機能や品質あるいは価格で戦っても、資本力のある大企業や台頭する新興国企業たちとの競争に打ち勝つことは難しいでしょう。したがって、「より良い商品をつくる」といった改良型発想ではなく、「競合商品と違ったユニークな存在となる」「戦い方/ルールを変える」といった発想が必要なのです。他と異なったユニークな存在になるということは、端的にいえばブランド力をもつということです。

 

必ずしも機能や品質面などの優劣だけが競争力ではありません。消費者は「自分に合っているかどうか」という適否の視点でも商品を選びます。むしろあらゆるものが優れていることが当たり前となっている今日の社会では、「自分に合っているかどうか」という適否の視点が重要となります。

 

これをコーヒーの事例で見てみましょう。

みなさんは、スターバックスのコーヒーとマクドナルドのコーヒーでは、どちらが美味しいと思いますか?米国の『コンシューマー・レポート』誌に掲載された興味深い調査があります。両社のレギュラーコーヒーを米消費者にブラインド(目隠し)で飲んでもらい、どちらが美味しかったかを回答してもらうという調査です。

 

結果は、事前に行ったブランドラベルが見える状態でのアンケートでは、美味しいと答えた回答者はスターバックスの方が多数派だったのにも関わらず、目隠しテストではマクドナルドの方が美味しいと回答した人が多数派となりました。

この結果から得られる示唆は、①消費者は舌(味覚)ではなく、目(視覚)で飲んでいる、②ブランドイメージによってコーヒーの味すら変わってしまう、ということです。

マクドナルドのコーヒーを購入する消費者の多くは、品質よりも安さや手軽さを求めて来店するのではないでしょうか。(顧客のマクドナルドへの期待価値は価格=安さ)。

 

一方、スターバックスのコーヒーを購入する消費者の多くは、コーヒーもさることながら、上質な時間をコーヒーと共に過ごせる空間を求めて来店するのです。スターバックスのコーヒーを多くの消費者が美味しいと感じる理由は、上質な時間や空間の中でコーヒーを美味しいと思わせる戦略が取られているからと言えます。(実際スターバックスはThe Third Placeというコトバで、空間をアピールポイントとしています。)

このように、消費者は“商品”そのものではなく“ブランド”を購入しており、ブランドイメージの“認識”はどちらが美味しいかという現実すら変えてしまうのです。

 

そのような認識を適切に設計し実践するのがマーケティング戦略です。商品は工場で作られますが、ブランドイメージは人間の心(頭)の中で作られます。つまり商品の優劣もさることながら、いかに消費者の心の認知を獲得するか(消費者に商品をどのように思ってもらうか)が、競争のポイントになります。

 

ブランドは消費者とのコラボレーション、すなわち企業側からの一方的な発信ではなく、消費者の認識や感情が加わって初めて形成されます。消費者の期待を上回る商品を提供できれば、企業が黙っていても口コミとしてその「評判」が広がっていくでしょう。消費者は単なる買い手や取引相手ではなく、共にブランドを形成し、そのイメージを広めてくれるパートナーであるという認識が必要なのです。

 

<ブランドと価値伝達>

ブランドを形成し、そのイメージを拡大するにあたって、消費者に対する具体的な「戦略的価値伝達の視点」が10項目ありますが、ここではそのうちの3つをごく簡単にお話します。

 

1つ目は“新しいカテゴリー”です。消費者は今までにない、新しくて斬新な商品に惹かれます。先ほどとりあげたスターバックスはコーヒーショップがあまた存在する中で、コーヒーの販売を通して上質な空間/時間を売るという新しいカテゴリーを提案しました。

 

商品だけでなくチャネルにおいても、新しいカテゴリーを創造することができます。PCはどのようなPCでもほぼ機能は同じですので差別化しにくい商品です。しかし、デル・コンピューターは従来の店頭販売方式でなく、インターネット上でのオンデマンド(受注生産)方式を採用することで、新たなPC市場(カテゴリー)を創造し、大企業のIBMからPC市場のシェアを奪ってしまいました。

 

このような新しいカテゴリー開発は話題性があり、ニュースメディアなどで取り上げられる可能性が高くなるので、いわゆるパブリシティ(無料の広告)効果が期待できます。パブリシティは、ブランドイメージを拡大する上での「評判」づくりに貢献してくれます。企業は商品開発の時点で、メディアに取り上げてもらえるような“情報開発”を意識することが大切です。

 

2つ目は“言葉のパワー”です。ブランドイメージを広げる上で大切なことは、魅力的で一貫したメッセージを発信し続けることです。「お口の恋人」(ロッテ)や「コーヒーギフトはAGF」(味の素)など、企業が発信しているお馴染みのキャッチフレーズが沢山あります。

 

日経BPコンサルティングの調査で、そうしたコーポレートメッセージから企業名がどれほど想起されるかのランキングがあります。先ほど申し上げたロッテと味の素のコーポレートメッセージは、それぞれ2015年度の1位と2位ですが、3位には「あなたと、コンビに、ファミリーマート」(ファミリーマート)がランクインしています。

 

日本で最初にコンビエンスストアを展開したのはセブンイレブンです。通例最初に業界をつくった企業が強いイメージを発信し続けるものなのですが、10位以内にすらランクインしていません。これは、何故でしょうか。実は、ファミリーマートは創業以来ずっと同じメッセージを発信し続けているのに対して、セブンイレブンは最初の「あいててよかった」から、何回もメッセージを変えているのです(現在は「近くて便利」)。

この事例から得られる示唆は、言葉のパワーは時空を超えて消費者の心(市場)に残り続け、メッセージの一貫性が極めて大切であるということです。

 

3つ目は“物語性”です。先ほど、ブランドイメージの認識は、現実すら変えてしまうことを指摘しました。イメージは事実より重いのです。そのイメージを形成する上で主要な要素が物語です。人に話したくなるような物語がある商品は、強固なブランドイメージを構築することができます。これを自動車の事例で見てみましょう。

 

米国で実施された2007年度の自動車ブランド信頼度調査ランキング(調査年度は古いのですが、特徴が端的に出ているので引用します)によると、上位トップ10の内7ブランドが日本車で、人気の高いメルセデスベンツは全36ブランド中最下位の36位でした。しかし、次に購入したい自動車ブランドのランキングでは、ベンツはトップ3に入っています。

 

このような結果が出る理由の1つに、ベンツは人に語りたくなるような魅力的な物語を沢山持っていることがあげられます。例えば、ベンツを含む欧車メーカーにはドアの音やエンジン音1つとっても、音響の専門家が携わっており、車に乗ることで心を高揚させるようなサウンドを作り上げるという意識でモノづくりがなされています。

 

一方日本の自動車メーカーの多くは製品技術で高い品質や機能を実現し、それがブランドの礎になるという考え方でモノづくりをしている傾向にあります。

技術はすぐに追随されかつ類似化の波に飲み込まれますが、ベンツという独自のイメージとその世界は真似られることはありません。

 

消費者に、「わが社を」「わが製品を」どのように認識してもらい、どのような物語を通じて、どのような評判づくりをしていくかという価値伝達戦略は、類似化という荒波の中で生き抜いていくための極めて重要な戦略視点といえましょう。

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