APSP第20回定例セミナーレポート<br>ソーシャルプロダクツ・アワード2017大賞受賞商品に学ぶ<br>“ブランディング”

2019/08/20

APSP第20回定例セミナーレポート
ソーシャルプロダクツ・アワード2017大賞受賞商品に学ぶ
“ブランディング”

人や地球、社会にやさしい(特別な配慮のある)ソーシャルプロダクツには、他にはないこだわりの背景やストーリーがあるため、世の中に出回っている大量生産・大量消費型の商品と比べると、比較的独自の世界観や価値観の構築・発信などがしやすいのですが、それを上手く実践しブランディングにつなげられている企業は、実際には決して多くありません。
そこで今回は、ソーシャルプロダクツ・アワード2017において、審査員から特に高い評価を得た国内部門、国際部門の大賞受賞企業2社に、どのようにブランドを構築してきたのか、またブランドを創り上げる際に何を大切にしてきたのか等についてお話を伺いました。
講演会場には、ソーシャルビジネスの経営者や企業のマーケティング担当者らが多数集まり、講演の後には活発な意見交換や質疑応答が行われました。

【講演1】「産地復興をかけた産地ブランド『iiza』への取組み」

河野通亜様 (越前ブランドプロダクツ・コンソーシアム 代表/武生特殊鋼材株式会社 代表取締役会長)

弊社ではクラッドメタル(異種金属接合材)の受注生産販売とオリジナル刃物鋼シリーズを生産しておりますが、まずは越前の街と歴史についてお話していきます。私たちが拠点としている福井県は人口77万人、弊社のある越前市は8万3000人弱で、県内では福井市、坂井市に次いで3番目に人口が多い都市です。越前市のおもな地場産業としては、電子部品、自動車部品、アパレル、化学、機械部品が、伝統産業としては越前箪笥、越前和紙、そして私たちが取り扱っている「越前打刃物」があります。

「越前打刃物」の歴史は、1333年に京都粟田口の刀匠「千代鶴国安」が刀剣制作に適した地を求め、府中(現在の越前市)に来住し、刀づくりのかたわら、農耕用の鎌を作り、その技法を近郷の人々に伝授したことから始まったといわれています。

国安は刀を造るたびに、砥石で狛犬を掘り、井戸に沈めたといわれています。そこには「刀は人を殺すための道具であってはならない。武士の象徴であってほしい」という、職人としての願いが込められていたのです。

その後、越前打刃物は、江戸時代の17世紀中頃には、府中藩主の本田富正の手厚い保護により全国に広が

っていきました。さらに江戸末期から明治初期にかけて最盛期を迎え、越前鎌と和包丁の生産量は80万7千丁まで増えました。明治7年の府県物産表によると、鎌が97万丁で全国1位、包丁31万丁で全国2位と記されています。

包丁造りで全国的に有名なところとしては、岐阜県関市、新潟県三条市、大阪府堺市などが挙げられますが、越前市は刃物産地として初めて国の伝統工芸品の対象地の指定を受けました。

「イーザ=iiZA」というブランド名は、福井弁で「良い座」(集まり)という意味です。越前工芸士が地域やジャンルの垣根を越えて一つに集まり、受け継がれてきた伝統を世界に発信し、未来へつなぐための「良い座」、それが「イーザ」という命名につながったのです。

この商品シリーズは、伝統の技に加え、素材も世界で認められた最高の素材であるクラッドメタルを使用して越前市内にある鋼材メーカーが製造しています。
「イーザ」の組織は、打刃物メーカー10社、刃研業者2社、業界団体である越前打刃物協同組合、タケフナイフビレッジ協同組合、刃物鋼製造メーカー(弊社)、プロダクトアドバイザー(株式会社ハーブ実験デザイン研究所のムラタ・チアキ氏)、セールスアドバイザー(ナノ・ビジュアロジカル有限会社の中川真男氏)、支援団体である越前市、武生商工会議所で構成されております。
沿革は2008年5月にジャパンブランド育成支援事業戦略策定支援事業の採択を受け、『越前ジャパンナイフコンソーシアム』が発足。その後、ドイツ・アンビエンテ展出展やパリでの商談会を実施しましたが、2011年の補助金事業の不採択を受け、有志が集結して、2012年7月に「越前ブランドプロダクツ・コンソーシアム」が発足したのです。
活動内容としては、デザイナーや職人がデザイン・商品企画を検討をしてから、全体会議→試作品制作を行い、その後越前ブランドとして認証すべきかを検討する認定委員会が開かれ、そこで承認されたら販売と量産体制を整えてプロモーションを展開していきます。
ブランドの構築においては、外部からプロダクトアドバイザーが入り、商品性と共にデザイン性を強く意識するようになったことで商品の魅力が高まり、ブランド力の向上につながりました。
こうした活動を経て生まれた商品としては、高級ステンレス刃物鋼VG10を使用し、使いやすさに優れた包丁「洋包丁メタルハンドルシリーズ」「1110(三層鋼)1210(多層鋼)、1310(コアレス)シリーズ」、柳刃大・小、薄刃、小出刃で構成された「和包丁シリーズ 3311 WABOCHO SERIES」(IFデザインアワード2015受賞)、筋引・牛刀・三徳・ベティで構成された「洋包丁シリーズ 4221 YOBOCHO SERIES」(IFデザインアワード2017受賞)などが挙げられます。IFデザインアワードは世界有数のプロダクトアワードですが、こうしたところで高い評価を得て輸出を増やし、海外でブランドを確立した後に日本市場に展開することで、商品を買いたたかれるリスクを下げているのですが、それもブランドにとってプラスになっています。
今後の展開としては打刃物だけでなく、周辺地域のモノづくり団体(眼鏡、越前和紙、越前箪笥、越前漆器ほか、福井の特産品などを作っている会社)と連携を深め、伝統の技法を現代に継承したうえで「iiZA」ブランドのさらなる価値の向上を目指していきたいと考えております。

【講演2】
『フェアトレードのある暮らし』のきっかけに。ブランドアンバサダーとしてのフェアトレードフード」

村田薫様(ピープルツリー/フェアトレードカンパニー株式会社 総務・食品シニアマネージャー)、
鈴木啓美様(ピープルツリー/フェアトレードカンパニー株式会社 広報・啓発担当)

「フェアトレード」という言葉をみなさんはご存知でしょうか? この場にいる人で初めてこの言葉をお聞きになったという人もいるかと思います。これは貧困のない、誰にとっても公正な社会をつくるために、発展途上国で経済的・社会的に弱い立場にある生産者と、逆の立場にある先進国の消費者が、対等な立場で行う貿易のことをいいます。そのためには適正に賃金を支払い、労働環境を整備し、生産者の生活水準の向上を図ることが必要不可欠なのです。

実はフェアトレードそのものを知っている日本人は人口の5割、そのうち正しく理解している人は3割というデータがあります。つまり、フェアトレードという言葉を聞いたことがあっても、間違って認識している人が2割いるわけです。
ピープルツリーの製品を作っているのは、アジア、アフリカなどの15か国、およそ140団体で、その多くは貧困から脱却できない国ばかりですが、それぞれの国や地方、民族には受け継がれている伝統技術があり、商品はそうした技術と、その地域で採れる天然素材を使って作られています。
また、ピープルツリーでは、WFTO(世界フェアトレード機関)が定めた「フェアトレードの10の指針」を重視しています。
①生産者に仕事の機会を提供する、②事業の透明性を保ち、説明責任を果たす、③生産者の能力向上に取り組む、④フェアトレードの普及・推進をする、⑤生産者に公正な対価を支払う、⑥性別に関わりなく平等な機会を提供する、⑦安全で健康的な労働条件を守る、⑧児童労働の撤廃に務める、⑨自然環境に配慮する、⑩信頼と相互尊重に基づいて貿易を行う。
私たちピープルツリーは、フェアトレード専門のブランドとして、人にも環境にもやさしい方法で作られた衣料品、ファッション雑貨、生活雑貨、食品など幅広い商品を販売していますが、大きなウエイトを占めるのが食品です。
なかでも1997年から販売されたチョコレートには、フェアトレードと知らずに手に取っても、フェアトレードに興味を持つきっかけとなるような情報がデザインの一部として盛り込まれています。
チョコレート自体はカカオマスやココアバター、砂糖を合わせ、植物性油脂や乳化剤を加えずに最大72時間の練りだけで、極上の口どけを実現し、累計販売数は1120万枚を超えました。
味に対して高い評価をいただいているのですが、品質を上げるために、生産者の方に日本に来ていただき、実際に販売されている場や購入する人々を知ってもらうようなこともしています。そうすることで、高品質なカカオづくりのモチベーションが上がりますし、ユーザーもそうした生産者と直接接する機会があることで商品・ブランドに対する愛着も高まります。
パッケージはフェアトレードを知らない人でも「かわいい」と興味をもってもらえて、手に取ってもらえるものがいいということで、イラストレーターの大神慶子さんにデザインをお願いしています。実際に、多くの女性たちの間で「かわいい」と評判で、友人などへの贈答用に購入される人も多いです。
ちなみにチョコレートのパッケージにはカカオポイントなるものもついていて、それを集めてもらうことで、カカオの木が病気の被害を受けてしまった農家にカカオの苗木を贈る取り組みも行っています。こちらも多くの方に賛同いただき、2015~2016年は1535本の苗木を届けることができました。
私たちは、ブランディングやマーケティングに関して戦略的に考えて行動をしてきたというわけではありません。ただ、商品の品質を高め、デザイン面でも手に取っていただきやすい工夫をし、その後もお客様と生産者がつながれる工夫をしてきたこと=お客様と共に商品をつくってきたことが、ブランドにもつながっているのかもしれません。
フェアトレードによるさまざまなアイテムは、幸せな物語を持って生まれてきます。貧しい国の人たちが労働で正当な報酬を得られることで、働くことの喜びを知る。世界のその国でしかとれない素材を使って、生産者の方々の顔を思い浮かべながらおいしい食べ物、おしゃれな服、かわいい雑貨と毎日の暮らしを楽しむ。一つの商品の携わった全員が笑顔でいられ、楽しめる。そうしたことこそが、私たちピープルツリーが果たすべき役割であると考え、これからも国内外を問わず広くアンテナを張って情報を発信しながら、魅力あるフェアトレード品を多くの方にお届けしていきたいと思います。

この企業について

越前ブランドプロダクツ・コンソーシアム

http://www.iiza.jp/

企業ページ

フェアトレードカンパニー株式会社

東京都世田谷区奥沢5-1-16-3F

https://www.peopletree.co.jp/index.html

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