APSP第24回定例セミナーレポート<br>ソーシャルプロダクツ・アワード2017特別賞「CSR」受賞商品に学ぶ<br>“大企業によるソーシャルプロダクツ誕生の背景と商品化までの道のり”

2019/08/20

APSP第24回定例セミナーレポート
ソーシャルプロダクツ・アワード2017特別賞「CSR」受賞商品に学ぶ
“大企業によるソーシャルプロダクツ誕生の背景と商品化までの道のり”

延べ350人の社員が和綿の種まきから収穫までを行い、熟練の作り手が思いを紡いでゆく三陽商会の「Watatsumugiプロジェクト」。2013年、栃木県の渡良瀬エコビレッジにて、和綿を栽培する「SANYO COTTON FIELD」としてスタートし、2016年には念願のストールの商品化に成功。全国各地の職人とつながりながら、和綿を保存・継承しています。日本の風土や環境に配慮し、伝統産業に貢献する取り組みとして、審査員から高い評価を得た受賞企業に、プロジェクトの進め方や商品開発の裏側、生活者とのコミュニケーション方法、新たな展開などについて、具体的にお話を伺いました。

 

【タイトル】ソーシャルプロダクツ・アワード2017 特別賞「CSR」受賞商品に学ぶ

“大企業によるソーシャルプロダクツ誕生の背景と商品化までの道のり”

講演者 】株式会社三陽商会 第一事業本部 新規事業ビジネス部 アポリス課 主任 亀田 勇真

【受賞商品】Watatsumugi ストール

 

◆三陽商会について

三陽商会は、70年の歴史を持つ老舗アパレルメーカーです。「真・善・美」という創業者の言葉があります。「装いで満足したい人間の心理、その心理に応えようと技術を駆使するのは作り手の発揮する善、そして生まれる製品は生活者にとって恵まれる美」。華美なデザインではなく、日常に落とし込まれたモノづくりという創業以来受け継がれてきた精神を会社の根幹に持ち合わせています。CSR基本方針としては、事業活動を通して社会的な存在意義を考えていくことや、お客様や社会、株主や従業員と多角的にコミュニケーションをとっていくことを重要視しています。

 

◆モノづくりの背景

CSR活動として社内有志で集まったメンバー5名くらいでスタートした和綿の栽培が、「Watatsumugiプロジェクト」の前身です。料理のシェフが畑の食材を試してみることが当たり前のように、洋服を作っている我々も生産地に赴いて素材を肌で感じるべきだと考えました。そこで、洋服の生産において最も使用されている綿に着目し、2013年から栃木県の渡良瀬エコビレッジで和綿の栽培を始めました。

かつての日本は和綿が盛んで、明治時代中期までは自給率100%を誇っていました。夏は涼しく、冬は膨らんで暖かくなるという、高温多湿の日本に適した性質の綿です。開始からストールが出来上がるまでの3年間、のべ350名の社員が種から和綿を育てました。現在は、新入社員研修として和綿栽培を引き継いでいます。

◆「Watatsumugiプロジェクト」発足

3年間、和綿を育てていくなかで、ある程度コットンボールが集まってきました。これを使ってどんなものを作ろうかと考えたときに発足したのが「Watatsumugiプロジェクト」です。じかに綿を感じることができ、和綿の特性が活かされるストールを作ることにしました。たいてい洋服を作るときは、デザイン→生地選び→工場選定…といった流れで進めていくのですが、今回は種から考えるという新しい方向性でモノづくりを進めていきました。

◆ストールづくり~紡績、織り、染め上げ~

ストールを作ると決めた後、大正紡績の近藤健一さんに紡績を依頼しました。20年以上前から綿栽培と紡績を世界中で行ってきたコットンの第一人者です。近藤さんと相談した結果、和綿と相性が良いとされるペルーとインドの綿を混ぜ合わせて糸を作ることにしました。和綿は22%の比率で入れています。紡績の過程で、引きのばしてねじりを加える作業を何度も重ねることで、強度のある細い糸に仕上げていくことができます。

次に、ストールを織る過程を兵庫にある土田織布の土田隆夫さんに依頼しました。機械化の進んだ現在では珍しい、昔ながらのシャトル織機(人の手による調整を多く必要とするアナログな織機)を使っている職人さんです。旧式なので時間はかかりますが、一つひとつに空気が含まれるため柔らかいストールになります。

最後に染色です。藍染めにも挑戦したいと考えていたので、徳島の藍師BUAISOUに依頼しました。藍の入った大きな窯に生成りを付ける作業を繰り返すことで綺麗な藍色のストールが出来上がります。全部で、生成り、生成り+藍、藍色の三種類を作りました。

◆「EARTH TO WEARプロジェクト」による生活者とのコミュニケーション

はじめのうちは、我々スタッフが体験し、得たものを生活者に伝えていくという一方通行でしたが、企業だけではなく生活者とともにCSRについて考えていく必要性を感じました。生活者とともに学び、考え、体験しながらファッションを楽しもうと、2017年より「EARTH TO WEARプロジェクト」を開始しました。ポップアップとワークショップを通して、アパレルの抱える現状と洋服作りの楽しさを一緒に学んでもらう“服育”の活動を日本全国で展開しています。

アパレル業界は、シーズンごとに生地を大量廃棄していることから、石油に続いて世界で2番目に地球を汚している産業であると言われています。私たちの服は無駄の上に成り立っているのだということをお伝えするために、残反を集めて安い価格で販売したり、残反で簡単にバッグが出来るキットを用意したりしています。また、シーチングという、デザイナーが洋服を作る際にメモをしたり仮縫いをしたりする紙も大量廃棄されています。我々は、これをショッピングバッグとしてお包みすることで、生活者にも洋服が出来上がるまでのプロセスを知っていただくことを目指しています。

※EARTH TO WEAR :http://www.earth-to-wear.com/

◆生活者との共創プロジェクト「EARTH TO SEEDS」

現在、インスタグラムで和綿の成長日記を投稿してもらうプロジェクト「EARTH TO SEEDS」を行なっています。生活者が育てたコットンを回収して新しいプロダクトを作る予定です。この商品づくりについても生活者とともに考えて作るワークショップを開催しようと考えているところです。

※EARTH TO SEEDS :http://www.earth-to-wear.com/earthtoseeds/

この企業について

株式会社三陽商会

東京都新宿区四谷本塩町6-14

https://www.sanyo-shokai.co.jp/

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