ソーシャルプロダクツ・インタビュー<br>―カゴメ株式会社「ふくしま産トマトジュース」―

2014/03/28

ソーシャルプロダクツ・インタビュー
―カゴメ株式会社「ふくしま産トマトジュース」―

東日本大震災から3年、3月11日には被災地をはじめ日本各地で、犠牲者の方々の追悼式が行われました。毎年この時期には、テレビや新聞等で被災地の現状や被災された方々に関する特集が多く組まれ、復興支援に対する人々の関心も高まります。その関心を一時的なもので終わらせるのではなく、私たちが気軽に、無理なく、継続的に参加できる取り組み・商品(ソーシャルプロダクツ)につなげていく事はとても重要です。

今回は、地震や津波で直接被害に遭われた方だけでなく、福島原発の影響で避難を余儀なくされている方々の支援につながる商品「ふくしま産トマトジュース」の製造・販売と、被災地の子供たちの奨学基金「みちのく未来基金」の運営に取り組む、カゴメ株式会社をご紹介します。広報グループの仲村様にお話を伺いました。

 

―「ふくしま産トマトジュース」は、どのような商品ですか。

文字通りですが、福島県内の契約農家が作った加工用トマトのみを原料にしたトマトジュースです。当社は長年、トマトジュースの原料となるトマトを、栃木や茨城、福島などの契約農家に生産を委託してきました。しかし、2011年3月に起こった東日本大震災以降、当社は福島県産の加工用トマトを一切原料に使用していませんでした。言うまでもありませんが、福島原発の事故の影響で、福島県内で生産されたトマトの安全性が担保できなかったためです。

こうした理由から、2011年3月以降、福島県内産の加工用トマトの使用を見送り、他県産の加工用トマトのみを原料にしてきましたが、約2年にわたる試験栽培で、畑の土壌から製品に至るまでの一貫した品質保証体制のもと、十分な安全性が確認されたため、2013年11月に「ふくしま産トマトジュース」を発売しました。被災地産の加工用トマトを使用しているということで、この商品の売り上げの一部は、「みちのく未来財団」(※1)に寄付される仕組みになっています。

※1 カゴメ、ロート製薬、カルビーの3社が合同で設立した、被災地の子どもたちの進学支援のための奨学基金。


―従来の商品の原料として福島産のトマトを利用するのではなく、敢えて「ふくしま産トマトジュース」を作った理由を教えてください。

これには2つの理由があります。ひとつ目は、「お客様に選択肢をご提供する」ということです。やむを得ない事実なのですが、様々な理由から、トマトに限らず福島産の農産物に対してネガティヴな感情をお持ちの方は今も少なからずいらっしゃいます。そういう方々に対して、「福島県産のトマトを原料にしていない商品」という選択肢ご提供することは、我々のひとつの責任であると思います。実際、試験栽培と科学的な調査研究の結果、当社が使う福島産のトマトの安全性は確認されていますが、そうは言っても、我々がそのことを全てのお客様に押し付けるわけにはいきません。そのため、「ふくしま産トマトジュース」という商品を作り、福島産を使った商品であることを明確に分かるようにしました。

もうひとつの理由は、「復興支援のために被災地の商品を買いたい」というお客様のご要望に応えるためです。被災地の物を食べることで応援したいというニーズも多く、買うこと・飲むことで復興支援に関われる商品であることが、この商品の魅力のひとつになっていると思います。


―「ふくしま産トマトジュース」の発売に至るまでに、どのような課題がありましたか。それをどのように乗り越えましたか。

加工用トマトの安全性確保と農家の方々との契約(栽培)を両立させることが大きな課題でした。2011年3月時点では、福島県内に約70の契約農家がありました。トマトの苗は通常春に植えるため、震災直後、2011年のトマト栽培をどうするかを早急に決めなくてはなりませんでしたが、当時は情報が錯綜していて、的確な判断を下すのは難しい状況でした。そのためひとつの方法として「例年通り契約農家にトマトを栽培してもらい、実ったトマトを検査し、原料として使えるレベルなら使う。そうでない場合は廃棄する」という案が出ました。ただ、農家の方々からすれば、「一生懸命栽培した作物を、現金で買い取ってくれさえすればその後はどうなってもよい(廃棄してもよい)」というわけではありません。そこで最終的には、何にも利用されず廃棄される可能性があるものは、最初から作ってもらわない、という決断を下しました。これは苦渋の決断でしたが、100年に渡り農家と共に成長し、農業に深く携わってきたカゴメだからこそできた決断だったと思います。

契約農家に対しては、契約栽培を今後も継続いただけるよう、買い取り予定額の3分の1相当額を経済支援させていただくことを決めました。また、安全性を確認するために、一部の契約農家にトマトを試験栽培してもらい、契約農家と一体となって、農地・作物の安全確認に取り組むことにしたのです。この体験を通じて、契約農家とカゴメが更に強い絆で結ばれたと思います。

福島の契約農家による試験栽培の様子


―この商品に対する市場の反応、売れ行きはどうですか?

詳細な出荷数はお伝えできませんが、売れ行きは順調です。地域によって出荷数に違いはあるものの、総じて東日本の方が良く売れています。被災地を身近に感じる分、共感値が高いことが理由ではないでしょうか。また、いくつかの企業からプライベートブランド商品に福島産の加工用トマトを使いたいというご相談もあり、実際に当社が協力して商品化されたものもあります。復興支援につながる商品に対して、生活者だけでなく、企業や団体も高い関心を持っているのだと思います。

「ふくしま産トマトジュース」は、上で述べたように、お客様が選択肢のひとつとして選べる商品です。当社が安全性を確認していますが、最終的に「通常のトマトジュース」「ふくしま産トマトジュース」のどちらを選ぶかを決めるのはお客様です。この商品は、様々な価値観のお客様にお応えするためのものであり、「福島のために」「復興支援につながるのなら」そんな想いのお客様にお求めいただければ、というスタンスで取り組んでいます。

 

―福島以外にも、岩手や宮城でのトマトの契約栽培を開始されたそうですが、その経緯と、それが御社の中でどのような位置づけなのかを教えてください。

もちろん、復興支援という要素で取り組んでいる部分もありますが、当社の「トマトジュースの全量国産化」の一環でもあります。宮城や岩手の海沿いでは、震災の津波による塩害のために多くの農家が離農を余儀なくされています。その一方で、被災地で農地を集約し、農作物の栽培を主導する農業生産法人もあります。我々のように、農産物を主原料にしているメーカーは、そうした農業生産法人とも契約することで、質量ともに原料の安定調達が可能となります。また契約栽培により全量買い取りを保証しているため、生産者は市場価格に影響されず安定した収入を確保することが可能になります。

2014年には、宮城県内の契約数が20軒に達する見込みです。「日本の農業を応援する」という当社の考えのもと、高品質原料の安定調達の実現を目指しています。当社と契約農家が、トマトを通じて共有価値を創造すること(=CSV)は、カゴメの目指す「ソーシャルブランド」の実現につながり、企業としての競争力や新しい市場の創造にもなると考えています。


―ロート製薬株式会社・カルビー株式会社と共同で設立された「みちのく未来基金」についても教えてください。

「公益財団法人みちのく未来基金」は、被災地の子どもたちの進学支援のための奨学基金です。東日本大震災発生直後、当社は、日本赤十字社を通じて3億円以上の義援金を寄付しました。こうした寄付も大切なことですが、被災地支援を長い目で見て考えたとき、この先本当に必要とされている支援を知った上で取り組まなければならないことがあると考え、もともと当社の会長と深い親交があり、同じ想いを持っていたロート製薬様、カルビー様と共同で、2011年9月に「みちのく未来基金」を設立しました。


―基金の支援内容を、子どもたちの大学や専門学校への進学支援にした理由を教えてください。

国や自治体などの公的機関による被災地の子どもたちの就学支援は、高校卒業までは手厚いのですが、その後の進学についてはかなり手薄になっています。また、これはやむを得ないことなのですが、公的機関の支援においては、平等性が重視されるため、ひとりひとりの就学希望に対して必ずしも十分な金額が拠出されるわけではありません。そのギャップこそ、企業である我々が埋められる部分であり、取り組む意義が大きいと思いました。

「みちのく未来基金」では、本当に子どもたちがやりたいこと、学びたいことを支援するために必要な金額を、全額支援(年間上限300万円)することにしています。2000人と言われる震災孤児、震災時に0歳だった子ども全員が、25歳になるまで―これから20年以上に渡って、責任を持って、東北の復興を支えていく人材の育成に取り組んでまいります。

 

―「ふくしま産トマトジュース」のような商品を通じた復興支援・みちのく未来基金のようなCSR活動を社内に浸透させ、社員の意識を高めるために取り組んでいることがあれば教えてください。

当社には、復興支援室という部署があり、そこには4人の専任スタッフが常駐しています。そのうち2人は、「みちのく未来基金」の専任です。この部署は公募で選ばれ、復興支援に対する意識が高く、積極的に取り組める人材が集まるようにしています。ひとつの部署として設けるということは、社員に対しても「会社がどれだけ本気で社会に貢献しようとしているか」を発信する有効な手段であると思います。

また、社会的取り組みの社内浸透を図るために、トマトのキャラクターデザインの社員証ストラップや、Tシャツ、ブルゾンなどを社内向けチャリティ商品として開発、販売しています。自社の商品・事業に根ざしたデザインのものに対して社員は親しみを持ちやすく、こうした商品の購入・使用を通じて、より良い社会づくりに参加しているという意識を持ってもらうことも、とても効果的です。
今後も、こうした活動・取り組みを長く継続していきたいと考えています。

この企業について

カゴメ株式会社

愛知県名古屋市中区錦3丁目14番15号

https://www.kagome.co.jp/company/

企業ページ

各種お問い合わせ

お気軽にお問い合わせください。