ソーシャルプロダクツ・インタビュー<br>―いすみ鉄道株式会社―

2016/12/27

ソーシャルプロダクツ・インタビュー
―いすみ鉄道株式会社―

千葉県夷隅郡大多喜町に本社を置くいすみ鉄道株式会社は、今年の9月から11月まで「菜の花募金付きいすみ米」の販売をインターネット上で行いました。これは、いすみ鉄道の沿線の農家で栽培・収穫された米の売上の一部を利用し、鉄道沿いの田んぼを菜の花畑にしようという地域活性化を目的とした取り組みです。今回は大多喜町の本社にお邪魔し、「菜の花募金付きいすみ米」のことを中心に、同社が行っている地域活性化の取り組みについて代表取締役社長である鳥塚亮様にお話を伺いました。

―はじめに、「菜の花募金付きいすみ米」のプロジェクトが始まったきっかけについて教えてください。なぜ鉄道会社が地域のお米の販売をしようと思ったのですか。

地域鉄道と地域には、密接な関係があります。かつて、国鉄がJRに変わる際、廃止対象となった路線が全国に80以上ありました。いすみ鉄道はその中の1つです。国の方針に従い、その半数の路線はバス転換を行いましたが、残りの半数は地域の人々の出資により守られ続けてきたのです。公企業や私企業でもない、第三セクターと呼ばれるものです。こういった経緯があり、いすみ鉄道の沿線に住む人々は鉄道に対して深い愛着を持っています。私はこれを「マイレール意識」と呼んでいます。

実は「菜の花募金付きいすみ米」は、沿線に住む農家の方が「線路沿いの田んぼを、菜の花畑にしたらどうか」と提案してくださったことがきっかけとなり始まったのです。田んぼを菜の花畑にするとなると、大量の種を買う資金が必要です。それなら、線路沿いの田んぼで収穫された米を「菜の花募金付き」と称して販売してはどうかと思いつきました。米の売上の一部で種を買って菜の花畑を作り、鉄道に乗って来てくれた人々に景観を楽しんでもらう、そんなストーリーを考えたのです。

このように、地域の方達のやりたいことを取りまとめて形にし地域に還元していくことは、弊社の役割だと思っています。地域の人々も私たちと顔見知りであるため、気軽に提案しやすい雰囲気があるのです。

 

―菜の花畑を見るために多くの観光客がやってくることで、地域に利益が生まれますね。「菜の花募金付きいすみ米」のプロジェクトは今年初の試みだそうですが、11月で販売を終了してしまったのはなぜでしょうか。

農家の人々がいちばん自信を持って売り出せるのは新米であるため、販売期間を3か月間と限定しました。新米は最も美味しく、アピールがしやすいという長所があります。東北地方では11月頃が新米の季節ですが、夷隅では8月の終わりから9月に新米が穫れるのです。

商品の販売自体は終了しましたが、購入者の方がいすみ米を気に入ったらまた購入できるように注文用紙を同封しました。次回以降は地元農家とファックスで直接やり取りをし、産地直送の美味しいお米を買えるようにしたのです。今回の商品販売で莫大な売上があったわけではありませんが、プロジェクトをきっかけにいすみ米のファンが増えることは、地元農家にとっては大きな利益ではないでしょうか。私たちは、そのきっかけを作っているだけなので、11月に販売を終了しました。

地域の鉄道会社が利益ばかり追い求めてしまっては、地域の人々を蔑ろにしてしまいます。それよりも、線路沿いに菜の花が咲き、鉄道に乗ってやってきたお客さんが笑顔になり、地元の人々が元気になるほうが良いじゃないかと考えています。

 

―プロジェクトを進めていく中で、難しさを感じたことはありましたか。

菜の花が咲く時期と田植えの時期が同時であるということです。この二つが被ってしまうことは、提案を受けた時から心配していました。どうしようか?と農家の人々に聞いたところ、田植えの時期をずらして菜の花畑を実現させようと提案してくれたのです。米は品種によって作付けの順番が変わるため、菜の花畑にする予定の線路沿いはいちばん最後に田植えを行うことになりました。2017年の春には第一回目となる菜の花畑が出来上がる予定です。

また、悪天候にも悩まされましたね。今年の夏は雨が続いたため、なかなか収穫ができず、告知や出荷をどのタイミングで始めようかと迷いました。収穫できず稲が伸びすぎてしまうと味にも影響します。

天候に左右されるという反省点も取り入れ、来年は田植え体験からプロジェクトを始めたいなと考えています。

 

―来年の計画についても教えていただけますか。

お客さん自らが田植えを行えるようにし、さらに稲刈りの時期には自分で植えた稲を収穫する体験ができたらと考えています。

今年の夏にも線路沿いの田んぼでバーベキューをするイベントを開催しました。田んぼで収穫した新米の塩むすびを食べながら、バーベキューをするのです。こういった催しは、地元の農家やお肉屋さんの利益にも繋がりますし、地域のファンを増やすきっかけにもなります。家族でイベントに参加する方も多いです。小さい頃にいすみ鉄道の線路沿いでバーベキューや稲刈り体験をした思い出は、きっと大人になっても忘れないでしょう。日本の田舎の良さを一人でも多くの子どもに感じてもらい、田舎の価値を次世代にも伝えていきたいですね。

今日、ローカル鉄道は移動手段として利用されるよりも、乗ること自体に価値を感じてもらうことのほうが多くなりました。いすみ鉄道に乗るために地域に足を運んでくださる方がたくさんいます。ローカル線は地域を盛り上げるための最適なツールと言っても良いのではないでしょうか。

―PRでの面で工夫していることがあれば、教えてください。

「ここには何もないがあります」という文言を用いて、宣伝を行っています。観光地というと、寺社仏閣や特産品などを大々的にPRしている地域が多いと思います。そんな中で、いすみ鉄道は「何もない」という地域の価値を掲げたポスターでPRをしているのです。このポスターを見たら、来てくれるのはおそらく10人中1人だけでしょう。しかし、首都圏の人口は3500万人。このうちの10分の1である350万人が来てくれたら、いすみ鉄道の目標としては十分なのです。弊社の車両は基本的には1両から2両で編成されています。レストランに例えるならば、100席の大規模な店舗ではなく、カウンターに数席だけある小さな店なのです。大勢のお客さんが訪れても入れません。そのため、客単価の高い、地域の良さが分かるお客さんが少しだけ来てくれることが狙いです。「何もない」地域の素晴らしさを分かってくれるお客さんが増えることにより、地域のモチベーションも高まります。

 

―今後の展望について教えてください。

平日やオフシーズンである冬に集客することが今後の課題です。寒い時期であればイルミネーションがやりやすいと思いますが、終電がなくなってしまうという問題がありますね。そのため、昼間でも楽しめる催しを考えていけたらと思っています。例えば、冬は地元の魚が美味しく、新酒なども呼び水の一つとなるでしょう。

 

―最後に、地域活性化事業を行う上で最も大切なことは何だと思いますか。

地域活性化の大原則は、田舎と都会を結びつけることです。これができれば、どの地域でも活性化は成功します。田園風景や渓流、古民家、ローカル線など、田舎には都会の人が憧れを感じる宝物がたくさんあります。田舎の人々は、その価値がなかなか分からないものです。私自身も東京都で少年時代を過ごしたので、田舎の魅力を発見することができました。都会のお金を田舎に持ってくることが地域起こしなので、お客さんである都会の人の目線を持ちながら、田舎と都会の橋渡しをすることが大切だと考えています。

また、地域活性化を成功させるためには、一時的ではなく長期的にその地域に浸かり、地元の人々と信頼関係を築く必要があります。しかし、一か所で成功したパターンは、他の地域でも応用して使うことができるでしょう。例えば、地元の農産物をローカル鉄道の中で食べる催しは、他の地域でも行うことができます。地元の人にとっては不便であったり価値のないものでも、実はそれが宝物だったりするのです。田舎の価値を見出すのは、都会の目線なのでしょう。

 

―ありがとうございました。

この企業について

いすみ鉄道株式会社

千葉県夷隅郡大多喜町大多喜264

https://www.isumirail.co.jp/

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