ソーシャルプロダクツ・インタビュー<br>―鈴廣かまぼこ株式会社「うみからだいち」―

2020/08/05

ソーシャルプロダクツ・インタビュー
―鈴廣かまぼこ株式会社「うみからだいち」―

 

今回は、水産練製品の製造・販売を中心に、様々な「食」に関する事業を通じて循環型ビジネスに取り組む「鈴廣かまぼこ株式会社」をご紹介します。創業150年余となる老舗企業が、自然環境の保全と地元小田原の活性化を図るため、新しく始めた取り組みについて広報課の酒井様にお話を伺いました。

 

 

御社の事業内容を教えてください。

江戸時代・慶應元年にかまぼこの製造を始めて以来、弊社は蒲鉾や竹輪等の水産練製品の製造・販売を手掛けてきました。時代とともに商品数や出店数を増やし、地ビールの製造・販売やレストランの運営も手がけるようになりました。国内2工場で製造した商品を、直営店やデパート直営店と、通信販売(WEB・TEL・FAX)で販売しています(2020年7月現在)。「食するとは、生命をいただき、生命をうつしかえること」を企業理念に掲げ、「食」に関する様々な事業を展開しています。

 

御社の「循環型ビジネス」とは、どのようなお取り組みですか。

弊社は、水産・農林などの資源を活用し、地域に根ざした事業展開をしています。そのような資源を利用して、弊社が製造・販売する水産練製品の製造過程では、魚の骨や皮・内臓・皮に残った身(=(うお)(かす))が発生します。こうした大量の魚滓を、何とか有効に利用するべく、粉末魚肥※1うみからだいち」を開発しました。現在、地元小田原の農家さんに「うみからだいち」を使って野菜や果実を栽培していただき、弊社の商品の原料にしたり、レストランメニューで活用したりしています。いのちの恵みを最大限に活かし資源を循環させることは、「食」に関わる企業が果たすべき責任であると考えています。

※1   魚を原料にした農業用肥料。

 

粉末魚肥「うみからだいち」

 

「うみからだいち」の開発に至った経緯を教えてください。

「うみからだいち」の開発は、自然界の正常な循環を取り戻したいという思いから始まりました。魚の命の一部である魚滓を廃棄物として処理するのではなく、何とか活かす方法はないかと日々考えていた所、小田原のみかん農家が、その昔魚滓を畑に撒いて肥料として活用していたことにヒントを得ました。手軽な化学肥料の台頭と、魚滓の入手が困難という理由から現代では衰退していた魚肥を、弊社なら作ることができ、その魚肥を使って地元の農家が育てた農産物を弊社の商品の原材料やレストランで利用すれば、水産業と農業を関連づけた新しい循環モデルを構築することができると考えました。

そこで 2006 年頃より、社内で魚肥の開発に着手しました。敷地内に設けた専用のビニールハウスで、神奈川農業技術センターの指導を受けながら研究開発をすること3年。2009年、研究の成果が実り、魚肥「うみからだいち」の商品化に漕ぎ着けました。

 

プロジェクト遂行にあたって苦労された点・それをどのように乗り越えたのかについて教えてください。

こうして開発に成功した魚肥ですが、現代の農家の方々に利用して頂くことはとても難しいことでした。使い慣れた化学肥料から全く知らない魚肥へ移行することは、農家にとってもリスクを伴う決断でした。農家に納得してもらい、 賛同を得るためには、魚肥の優れた点を理解してもらう必要がありました。

魚肥には植物の成長に必要な栄養素が豊富に含まれること、また江戸時代には、鰯を乾燥させた魚肥「干鰯」が木綿や麦の栽培に用いられていたり、地元のみかん農家が魚肥を利用していたりと、日本の農業で長く利用されてきた肥料であることを農家の方に伝えました。また、蒲鉾工場の横にビニールハウスを作り、自分たちで魚肥の効能を証明するための野菜作りにも取り組みました。ちょうどその頃、食の安全性に世間が注目し始めたこともあり、次第に地元の農家が魚肥に関心を寄せてくれるようになりました。

こうして、栽培作物の全量買い取りの約束の下、以前から取引のあった大葉農家が、「うみからだいち」を利用してくれることになりました。実際に魚肥で栽培された大葉は、以前より生育がよく、収穫量も増え、魚肥の優れた効能が示される結果となりました。その後契約農家も増え、現在では約15の農家が「うみからだいち」を利用しています。

 

「うみからだいち」で作られた商品には、どのようなものがあるのでしょうか。

以前から製造していた商品の原料を「うみからだいち」で生産された農作物に変更したものと、新しく商品開発したものがあります。人気商品である「かをり巻」は、白身 のすり身を大葉で巻いた商品ですが、この商品で使用する大葉を全て、「うみからだいち」を使って栽培したものに切り替えました。新しく開発した商品には、契約農家が栽培した小田原米を原料にした日本酒や、野菜を使った漬物、小田原のレモンを使った地ビールや果実のジャム等があります。いずれも、弊社の展開する各店舗で販売しています。

また、弊社のレストラン「えれんなごっそ」では、契約農家から仕入れた野菜やお米を使ったメニューを提供しており、お客様にも大変好評いただいています。おかげさまで、休日には空席待ちの列ができるほどの盛況ぶりです。

 

人気商品「かをり巻」

 

社会性のある商品やプロジェクトに対する、お客様からの反応はいかがですか。

該当商品への「うみからだいち」マークの貼付、大きなパネルやPOPの店内設置、パンフレット内でのプロジェクト紹介により、弊社の取り組みの認知は少しずつ広がってきていると思います。循環型ビジネスへの理解をいただいた上で、お客様からは、「つくり手の顔が見えるので安心」「味が濃くて美味しい」等のご意見を多数いただいています。

また、レストラン「えれんなごっそ」では、以前世界食糧デー月間に初の試みとして、お客様の飲食代金から、20円/1人を国連食糧農業機関(FAO)に寄付させていただくというチャリティプロジェクトを行いました。たとえ20 円でもたくさんの人が集まると大きな力になるということをお客様にも実感してもらうべく、木のイラストを描いたパネルを作成し、果実に見立てた丸いシールをお客様に 1枚ずつ貼っていただくという企画にしたのですが、果実が実っていく様子が目に見えて分かり、お客様からも予想以上の反響をいただきました。ご家族連れのお客様からは、「自然の恵みを残さず食べることの大切さを子供に教えるきっかけになった」という嬉しい声も届きました。社会的な取り組みに対するお客様の意識の高さを実感する良い機会になりました。

 

今後の目標を教えてください。

ここ小田原で長年、地元の海・山からの豊かな資源をいただきながら事業を続けてきた企業として、弊社はこの土地の自然・人々をいつまでも変わらず守っていく責任があると思っています。現在取り組んでいる循環型ビジネスは、弊社の長い歴史の中ではまだスタートしたばかりの取り組みですが、まずは弊社で使用する原材料を、今後「うみからだいち」で生産された農産物に切り替えていきたいと思っています。そして、それを継続するためには、魚肥の安定した生産と、契約農家との信頼の構築が必要不可欠です。

幸いにもこの循環型ビジネスの取り組みは、勉強会などを通じて社内に浸透しており、皆が共通の意識を持って業務に従事しています。また、お客様から「素晴らしい取り組みですね」「もっと続けて欲しい」等のご意見を通じて、取り組みを評価していただくことで、社員のモチベーション向上にも繋がっていると思います。「社員が同じ認識やビジョンを持っているということは、弊社の強みです。今後も確固たる企業理念のもと、社内の意識の統一を図りながら本業を通じて自然環境を守り、地域を活性化するべく邁進したいと考えています。

 

(当記事は2013年9月に発行された当協会ニュースレターにて紹介したものを、2020年7月現在の情報に改めた記事となっております。)

この企業について

鈴廣かまぼこ株式会社

神奈川県小田原市風祭245

https://www.kamaboko.com/

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