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第九回:ソーシャルプロダクツの開発とブランド戦略 ~オンリーワン商品になるために~

 

 

 5月23日に開催された第9回定例セミナーは、「ソーシャルプロダクツの開発とブランド戦略 ~オンリーワン商品になるために~」をテーマに、ソーシャルプロダクツ・アワード2014 の大賞、特別賞を受賞した株式会社クレコス、特定非営利活動法人パルシック、の2 企業/団体にご講演いただきました。

 

事例1 「アールグレイ紅茶を商品化するまで」

    ~ソーシャルプロダクツ・アワード2014 特別賞受賞~

    井上礼子氏(特定非営利活動法人パルシック 代表理事)

 

 パルシックは2009年より、スリランカで内戦からの復興支援を行ってきました。「地域住民が自分たちの生き方を決め、豊かな暮らしを築く世界を目指して、人間的な交流と信用に基づく交易の輪を広げ、連帯経済のネットワークを形成する」ことを指針に掲げ、現地では紅茶づくりの支援をしています。今回は、スリランカでのアールグレイ紅茶の商品化について、お話しさせていただきます。

 

 パルシックは、スリランカでも最も貧しい地域とされる南部の村での紅茶の有機栽培の支援から商品化、販売まで行っています。紅茶という商品を選んだのは、腐らないこと、リピートしやすいこと、そしておいしいという理由からです。アールグレイにしたのは、対象地域で栽培されている紅茶はとても味はよいのですが、そのままだと独特の香りがあるためです。ベルガモットで着香するアールグレイであれば、皆さんにおいしく飲んでいただけるのではと思いました。

 せっかく有機栽培している茶葉なので、それを活かし、他と差別化するために、ベルガモットも同じく有機栽培のものを使っています。また、ネーミングについては、商品の良さを自信を持って伝えるために、あえて変わった名前はつけずに、「アールグレイ紅茶」というシンプルな商品名にして、わかりやすさを優先させました。

 さらに、ソーシャルなプロダクツにおいては魅力的でないとことが多いといわれるパッケージデザインにも力を入れ、専門のデザイン会社に頼んでいます。この辺りは、選んでもらえる商品になるために意識していることです。

 

 パルシック「アールグレイ紅茶」が生まれたきっかけについてもご紹介したいと思います。パルシックが支援をしているのは、スリランカ南部のルフナという地区です。スリランカ中部は大規模プランテーションが多いのに対し、ルフナは家族経営の小規模農園がほとんどです。このルフナの紅茶農家から、「有機栽培に切り替えたい」と頼まれたことが、この「アールグレイ紅茶」が誕生したきっかけです。ルフナの紅茶農家では、農薬による健康被害、水源の汚染に直面しており、農薬を使わずに茶葉を栽培したいと思っていましたが、そのやり方がわからないということで私たちに支援を求めたのです。幸いにも、有機栽培紅茶の専門家であるピアセナ博士という方との出会いもあったことから、有機栽培への切り替え支援プロジェクトがスタートしました。

 有機栽培のスタートに際しては、農家に牛を支給して堆肥を得られるようにしたり、肥料を使わない代わりに窒素を固定するマメ科の植物の混植をしたりと、技術指導を行ってきました。茶葉の加工場を設立し、商品化・販売まで行っているのですが、商品開発段階では、日本のお客様においしく飲んでいただくには日本の水道水でおいしく飲めなければいけない、と、日本とスリランカを何度も往復しながら、風味の検討を徹底して行いました。

 現在、有機栽培農家を100世帯に、生産量を年間10トンに、という目標に向かっています。有機栽培に切り替えたい農家はとても多いのですが、すべてに対応しきれていないのが現状です。牛の支給が予算的に間に合わないので、現在は、何軒かの農家が共同で堆肥を分け合うシステムなどを構築中です。

 また、生産した紅茶の販売については、売ってしまわなければ次の支援にもつながらないので、一般の生活者への小売だけではなく、レストランチェーンへの卸販売なども行っています。

 これまでも「アールグレイ紅茶」のブランドづくりに取り組んできましたが、ブランドと呼ぶにはまだまだです。しっかりとした商品ストーリーはすでにあるので、それをどう伝えていくかが今後の課題です。

茶葉の栽培から商品の販売、リピートまでのよいサイクルをつくり、今後もスリランカの有機栽培農家を増やしていきたいと考えています。

 

 

事例2 「久遠 - ”農”と”森”と”福祉”のサステナブルな取り組み」

    ~ソーシャルプロダクツ・アワード2014 大賞受賞~

    暮部達夫氏(株式会社クレコス 副社長)

 

 クオンの商品づくりの原点であるいくつかの活動や取り組みを紹介したいと思います。

 

 クレコスでは2003年から、日本の森について考える啓蒙活動等を行う「いのちの森倶楽部」というものをやっています。また、商品の愛用者さんによる会員組織をつくっており、NPOであるアジア協会さんと発展途上諸国に井戸を寄付する活動を行っています。そのほか、古いタオルでぞうきんをつくって高齢者施設に寄付したり、化粧品メーカーとして、お年寄りへのメイクボランティアなども行っています。

 

 私達の事業活動の柱となる原料生産については、全国のオーガニック農家さんとコミュニケートしながら、原料を調達しています。有機農家さんからはヘチマ水やアロエベラを分けて頂いたり、酒造メーカーから有機のコメヌカを調達したりして、それをもとに化粧品原料を作っています。

 障害者支援も創業以来つづけていることで、奈良にある障害者施設「たんぽぽの家」を支援したり、障がいのある人が働く授産施設で間伐材からスギウォーターを抽出したりといったこともしています。

 

 クオン社会貢献に関しては、大企業と違い、中小零細企業が利益の何パーセントかを寄付しても、社会にどれだけインパクトを与えられるかわかりません。また、災害が起きたときなどにも寄付をしますが、利益の一部を寄付するというやり方では、その際、それまで支援してきた団体等への支援が手薄になってしまうかもしれません。ではどうすればいいのか。

 これまで、営利企業として、商品を作って販売する流れの中で社会活動にも取り組む(両者を融合する)ということを考えてきました。そういったことがこのブランドをつくったきっかけでもあります。社会の役に立つということは当たり前のことですが、我々の本業を通じて何ができるのかを考え、その原点から新しい商品をつくってみようとつくったのが、クオンプロダクツファームであり、クオンというブランドなのです。

 

 クオンプロダクツファームでは、奈良・大和高原で、耕さない、肥料も与えない、農薬も与えない「自然農」でお茶を栽培しているグループとパートナーシップを結んでいます。これは耕作放棄地を再生しようというプロジェクトでもあり、この自然農で栽培された大和茶を化粧品の成分として活用しています。この取り組みによって、大和高原では、かなりの面積の耕作放棄地が再生してきており、全国から、「自然農で大和茶をつくりたい」という若者が移り住んできてくれています。

 我々はお茶の葉、実、花、すべてを化粧品原料として使っていますが、これによる社会的なインパクトもあります。自然農でお茶を栽培するということは、生産量も少なく、農家にとっては非常にリスキーなのですが、私たちは、秋にお茶の花を買い上げ、冬から春にかけては実を買い上げ、その後は茶葉を買い上げますので、農家さんは年間を通じて収入が安定することになるのです。

 

 大和茶の原料は一度新潟に運んで、そこの障がい者施設で化粧品原料に加工してくれています。また、商品のパッケージについては、森林保護のために山から間伐材を切り出して、それを障害者施設に持っていき、そこでパルプ作りから始めて、化粧品パッケージの紙をつくり、利用しています。

 

 こうしたことは、最終の商品だけを見ると見えづらく、説明もしづらいのですが、そうしたことを必ずしもお客様に説明できなくてもいいのかな、とも思っています。売上が上がれば、たとえ「社会的取り組みに積極的な会社・ブランド」としてお客様に知られなかったとしても、パートナーさんとwin-winの関係を築いていけることになるので、それはそれでよいと思っています。一方で、私たちは化粧品の会社なので、商品としてよくなければ意味はありません。使っていただく皆さまにとって使いやすく、買いやすい商品であるために、化粧品のテクスチャーや香り、パッケージデザインなどは良くなければなりません。強いブランドをつくるためには、そうした化粧品メーカーとしての本分がまず一番にありきということを忘れてはいけないと思っています。

 

 

 

 

 

 

 

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