第三回:ソーシャルプロダクツのポテンシャルと成長性


 

ソーシャルプロダクツ普及推進協会では、2013 年 2 月 22 日(金)に 3 回目となる定例セミナーを開催しました。テーマは「ソーシャルプロダクツのポテンシャルと成長性」。

 

はじめに国際的なマーケティング研究で注目を集めるフローリアン・コールバッハ氏より、ソーシャルプロダクツをめぐるマーケットの現状や課題について多彩なデータにもとづくお話をいただきました。

 

続いてオーガニックコットンの栽培と基金付きのソーシャルプロダクツの販売を軸とした循環型プロジェクトによって、現地の生産者と日本の生活者をつなぐことに成功した株式会社フェリシモの葛西龍也氏より、「しあわせ」を実現する事業の仕組みづくりを学びました。

 

セミナーの最後には、コールバッハ氏と葛西氏の示した課題や展望をふまえ、会場を交えたトークセッションを開催。ソーシャルプロダクツのポテンシャルと可能性をめぐるディスカッションが行われました。

 

 

1.基調講演
フローリアン・コールバッハ氏(ドイツ日本研究所 経営・経済領域リーダー)
テーマ 「ソーシャルプロダクツのポテンシャルと成長性――エシカル消費の志向とソーシャル商品の可能性のマッチング」

 

コールバッハ氏はまず、先進国では消費者の支出が経済のおおむね 5 割を超えているというデータを示し、消費を変えれば社会が変わる可能性があると指摘します。日本では震災以来、節電やエコ、グリーンなどが注目のキーワードとなり、倫理的消費(エシカル消費)も少しずつ知名度を上げていますが、例えばエコ商品はエコポイントによる経済的なインセンティブの方が実際には強いなど、まだまだ倫理的消費の側面は薄いといえます。

 

130222-28ある国際的な調査データをみても日本ではフェアトレード自体について知らない人が 5 割を超え、一人当たり年間10 円も支出していない「フェアトレード発展途上国」です。しかしながら、別の調査をみると日本でフェアトレードの考えに共感する人は 6 割以上。また、買いたいという人も6割以上と高い割合を示しています。ただし、その中で実際に商品を買う人は 3 割で、さらに価格が高くても買う人は 2 割にすぎません。

 

さまざまな調査データから、日本では倫理的消費に関心を持っている人が多くいるにもかかわらず、行動に結びついていないことがわかります。これは同時に、まだまだマーケットは小さいものの、ソーシャルプロダクツにはポテンシャルと成長性があるととらえることができます。しかしそのためには、消費者がソーシャルプロダクツを「知らない」「情報が足りない」「よくわからない」という現状を変え、企業や政府、NPO などの後押しで、ソーシャルプロダクツの付加価値を理解してもらい、消費者を育成する必要があります。

 

そのためにコールバッハ氏は、①ネーミング・広報、②定義、③消費者ニーズと企業目標とのマッチングという 3 つの課題を示し、マーケティングとブランディングに力を入れて消費者ニーズと企業として実現すべき目標をマッチングさせる仕組みづくりの重要性を指摘します。

 

ただ「ソーシャルだから」、「エシカルだから」ではなく、それぞれの商品の機能や付加価値がどこにあるのかを明確にする仕組みをつくることで、生活者の倫理的消費の志向と企業の送り出すソーシャルプロダクツがマッチし、実際の消費行動が生まれるのです。

 

 

2.企業活動の事例報告
葛西 龍也 氏(株式会社フェリシモ グローバル事業推進部 新規事業室長 室長)
テーマ「ソーシャルプロダクツとしあわせの事業化」

 

「永続的発展的なしあわせ社会を創造すること」を事業目的に掲げているフェリシモでは、顧客との継続的・発展的な関係性をもとに、さまざまな事業活動や社会文化活動を展開しています。例えば、全国の顧客から毎月 100 円の寄付を募って植林を行う「フェリシモの森基金」や、着られなくなった服や思い出の布を手づくりのぬいぐるみに変えて国内外の子どもたちに届ける「HAPPY TOYS PROJECT」などの社会文化活動からも、同社の取り組みに共感し、それを支える顧客との関係性を垣間見ることができます。

 

130222-29しあわせ社会の創造に向けた事業活動として、葛西氏自身が立ち上げたプロジェクトに「LOVE&PEACE PROJECT」があります。

 

2001 年の 9.11 テロの後、顧客から届いた「何かできないか」という一通のメールから始まったこのプロジェクトではニューヨーク、アフガンの子どもの自立支援に活用する基金付き T シャツを作成して販売。11 年間でシリーズ合計 23 万着を売り上げ、基金合計は 6,869 万円にのぼります。

 

これらの経験から、葛西氏は事業構造そのものを利用した CAUSE(問題)の解決と社会幸福のための活動モデルとして、商品そのものに活動を組み込むことと、CAUSE のドナー(提供者)が企業ではなく生活者自身であることが重要だと指摘します。何かのきっかけからはじまる活動が、顧客との相互作用を重ねる中で大きなうねりを生みだしてきたのです。

 

 

循環型ビジネスの構築
「PEACE BY PEACE COTTON PROJECT」は、私たちの生活に欠かせないコットンの栽培による環境負荷や残留農薬による農民の健康被害、農村の貧困構造やそれにともなう自殺や児童労働などの CAUSE への気づきから始まりました。

 

使えば使うほど人にも地球にも悪く作用するこれまでのコットン事業のモデルに代わって、基金付きのコットン製品を使えば使うほどより良い方向に循環する仕組み作りへの挑戦でした。コットン製品を作るプロセスをさかのぼり、サプライチェーンの仕組みやトレードの過程に目を配る中で、インドで綿花を生産する農民にお金が届かない構造があることがわかりました。そこで、JICA の協力のもと信頼できる現地 NPO をパートナーに得て、農家の有機農法への転換支援や子どもたちの奨学支援を公正に行う新たな仕組みを 3 年がかりで構築しました。

 

これまで、トータルで 6,117 件の現地綿農家が支援によって有機農法に転換。その過程で例えば 2012 年度には 253 名の高等奨学支援、791 名の小・中等教育課程児童の復学支援を実現しました。これは農家がプロジェクトに参加してオーガニックコットンを生産すると、子どもが学校に行くことができる仕組みによるもので、現地の農家にとって大きなインセンティブとなりました。

 

 

コットン製品に関わる消費者、小売り、仲卸、生産者などの誰かが少しずつ変わっていくことで、製品を売れば売るほど大地に栄養がいきわたり、農民の生活が成り立ち、子どもを学校に行かせることができるという循環型の構造が、できあがったのです。4ビジネスと支援行動がつながりにくい構造的課題同プロジェクトはビジネスをつうじた支援行動の成功例といえますが、葛西氏は両者の間に存在する構造的課題として、①P/L(損益計算)構造の違い、②バリューチェーンに対する認識の相違、③数値化できない要素、④立場を超える共通の目標をいかにつくるかという 4 点を指摘します。

 

例えば、ビジネスは数値化の産物ですが、支援行動は数値化しにくい側面があります。そうした数値化できない要素を、覚悟をもってビジネスの流れに組み込むことからソーシャルプロダクツが生まれるのだとすれば、そのためには生産者、メーカー、小売り、消費者それぞれが立場を超えた共通の目標をもつことが大切になります。その場合、何が共通の目標になるでしょうか。

 

葛西氏は「責任ある仕組みを残すのが大人の務め」といいます。問題を生み出す社会経済的な構造を是正し、企業が活動すればするほど、誰もがしあわせになるという仕組みを今の世代が作ることで、永続的発展を経済界から構想できると考えています。100 年後の子どもたちが笑顔でいられる社会の仕組みを残すこと、すなわち未来に向けた永続的な社会の構想こそ、さまざまな人びとが立場を超えるきっかけとなる可能性をもっています。

 

ビジネスと社会を変える仕組みづくりとを結び付けたフェリシモの取り組みは、ソーシャルプロダクツをつうじて現在の CAUSE を解決するだけにとどまらず、インドと日本という空間軸、そして現在と未来という時間軸の 2 つの軸で、人や組織を結びつけています。100 年先を見据えることで、人びとを結びつける共通の価値を見出し、商品や事業をつうじてその実現に向かう同社の取り組みは、これまでにない新しい企業活動のアプローチといえます。

 

 

3.トークセッション
パネリスト:フローリアン・コールバッハ氏、葛西龍也氏、中間大維(ソーシャルプロダクツ普及推進協会専務理事)

 

130222-84トークセッションでは、まずソーシャルプロダクツに対する生活者のレスポンスについての議論が交わされました。葛西氏は、ソーシャルプロダクツの主な購買層として女性を挙げ、それ以外の層を取り込む必要性を訴えました。一方、コールバッハ氏は、ソーシャルプロダクツの概念すらわからない人がいまだに多いことを述べ、また、魅力を感じても値段が高いから買わない人も多いこと、5商品自体の物足りなさなどを指摘しました。こうした現状に対して、商品の価値や特長を伝達するコミュニケーションの重要性があらためて話し合われました。

 

さらに、会場を巻き込みつつ、B to B のソーシャルプロダクツやサービスにおけるソーシャルプロダクツの可能性も検討されました。B to B においては、行政やユーザーを巻き込んだ長期的な仕組みづくりについての意見が交わされ、またサービスにおけるビジネスモデルの構築の方法や社会的な課題に対する価値をどのように伝達するかなどが話し合われました。

 

限られた時間のセッションでしたが、ソーシャルプロダクツのポテンシャルをさまざまな角度からとらえ、展望を見出す実りあるものとなりました。