第十七回:地方×ソーシャルプロダクツ〜事例から考える“地域資源を活 かした商品開発とその可能性”


5月17日、ソーシャルプロダクツ普及推進協会では「地方×ソーシャルプロダクツ〜事例から考える“地域資源を活かした商品開発とその可能性”」と題したセミナーを開催しました。
「地方創生」という言葉が注目されている現在、地域の資源を活かしたソーシャルプロダクツについて学ぶべく、株式会社フプの森の亀山様と、公益財団法人日本離島センターの森田様にお話を伺いました。

第一部「地域資源を活かした商品開発 〜ストーリーとその戦略〜」
株式会社フプの森 取締役 研究開発マネージャー 亀山範子様


 2016年のソーシャルプロダクツアワードで大賞を受賞した株式会社フプの森は、北海道下川町に拠点を構えるメーカーです。「NALUQ」というブランドを立ち上げ、北海道や国内で生産されたオーガニック原材料などを使い、現在はエッセンシャルオイルやハンドクリーム、キャンドル、枕などを製造・販売しています。

 大自然に囲まれた下川町は、夏は30度、冬はマイナス30度にもなる、激しい気象の変化が見られる地です。昭和の前半に軍需資材として大量の木材を供給したことにより、林業の町として全国的に名前が知られるようになりました。現在は町全体で、持続可能な循環型森林経営や、森林バイオマスエネルギーの導入など、環境に対する様々な取り組みが為されています。また、2001年には下川町が北海道で初めてFSC森林認証を取得しています。

 2012年に株式会社として独立したフプの森は、2000年に始まった下川町森林組合の精油事業が土台となっています。その精油は、北海道にしか自生していないトドマツを使い、水蒸気蒸留法で抽出するのです。2006年には森林組合から切り離す形で運営主体がNPO法人になり、森林療法や宿泊施設などと共に事業を展開してきました。その後、精油事業の担当者が、事業の方向性について度々話し合いをし、株式会社を立ち上げました。そして、株式会社のメンバーは「森に関わることをしたい」という思いに立ち返り、下川町の山を買うことも決めたのです。その山を拠点に始まった事業が「フプの森」です。事業を始めるにあたっては、特別な方法で山道作りを進めるなど、環境への配慮を行い、森を壊さないように開拓を行ってきました。フプとはアイヌの人々の言葉で「トドマツ」を意味します。会社名には、北海道の森を代表する木であるトドマツが、人々の暮らしの一部となるように、という思いが込められています。

 コスメブランドとして大きく躍進したきっかけは、コンセプトづくりから一緒に考えてくれるとある化粧品メーカーとの出会いでした。これまで外部からの意見を取り入れることなく商品展開をしていたのですが、このままではジリ貧になるという危機意識もあって、第三者の意見を受け入れ、それを新たな刺激に商品づくりができたことが事業にとっての大きな進歩につながったと考えています。

 現在の商品については、「(広く受け入れられる)香りのオリジナルブレンド」「(見るだけで)世界観が伝わるデザイン」「オーガニック、北海道産原料の使用」の3つを重視し、顧客層の拡大や説明型商品からの脱却に努めています。ちなみに、商品のパッケージや宣材写真は、森林組合の木こりでもある人間が担当し、下川町の森をよく知っているからこその視点で、ブランドのイメージを作り上げています。

 会社立ち上げ以来、ここまで話題性だけで来ましたが、市場には数多くのオーガニックコスメが存在しており、次の一手がNALUQにとっての本当の試金石になると思います。これまでは専ら商品開発に投資してきましたが、今年は広報やプロモーションにしっかり投資をしつつ、機能的にもはっきりと差別化できる魅力的な商品の研究・開発も行ってまいります。また、フプの森にショールームを作り、実際に生活者に下川町に足を運んでいただいたり、森を体験できる活動などを提供することも視野に入れて、他にはないブランド・事業にしていくつもりです。

第2部「地方創生における離島のソーシャルプロダクツの可能性」
公益財団法人日本離島センター 調査第二係長・広報係長 森田朋有様


 日本離島センターは、1966年2月、離島振興推進の拠点組織として設立された公益法人です。2016年4月現在の会員数は、離島を抱える137市町村。離島に関する調査研究と、広報宣伝活動が主な事業活動内容となります。国や地方公共団体から受託した調査の実施に加え、離島の諸問題についての実態調査を行い、各種統計情報の作成をしています。また、離島に関する公報誌や統計データブックの作成・観光を行い、各種PR活動も行っています。

 日本には6852の島が存在します。日本離島センターでは、6852島のうち北海道・本州・四国・九州・沖縄本島の5島を「本土」とし、それ以外の小さな陸地にあたる6847島を「離島」としています。このうちの約420島に人が住んでおり、現在、離島全体の人口は66万8千人、我が国の人口の0.5%を占めています。島を人口規模別にみると、500人未満の島が半数以上です。

 日本の排他経済水域等の面積は447万㎢。離島が存在することにより、本土のみの場合より2倍近い水域を確保できていることになります。また、離島は国防及び東アジアの安全保証上の拠点として歴史的にも大きな役割を果たしてきました。日本水難救済会の救難所の13%が離島に置かれており、海の安全確保にも貢献しています。

 海や山、多様な動植物など、豊かな自然環境も離島の魅力のひとつです。山口県萩市見島には、日本の在来種の血統を守り続けている非常に貴重な「見島牛」が生息しています。鹿児島県奄美諸島には国内最大級の蝶・オオゴマダラが、熊本県天草市通詞島では野生の南ハンドウイルカを見ることができます。外来種が入ってこないための対策や海岸掃除など、島本来の自然環境と多様な生態系を保全するためにさまざまな自然保護活動が行われています。

 現在、離島の人口は一貫して減少傾向にあります。観光客数もピーク時に比べて大幅に減少し、宿泊者数も同様に減少しています。中には観光客数が伸びている島もありますが、日帰り客が多くなっており、観光消費額の増加に直結していないようです。観光客数減少の背景には、非常に高額な航路旅客運賃の問題が存在し、海上輸送のコストがかかることが挙げられます。これは、離島居住者の生活にも直結する問題であり、今後、このような問題の改善が望まれています。


 離島のソーシャルプロダクツの事例として、宮城県塩竈市浦戸諸島の取り組みを紹介します。桂島、野々島、寒風沢島、朴島の4つの有人島で構成され、日本三景の一つである松島湾の入り口に位置する離島です。古くからカキや海苔の養殖が盛んです。 この浦戸諸島は東日本大震災で甚大な被害を被りました。野々島では家屋や消防団倉庫など17戸が津波により流失し、地盤沈下の被害もありました。

 その浦戸諸島に元気を取り戻そうと立ち上がったのが、「しおがま文化大使」であり元オリンピック選手の畑中みゆきさん。桂島の海苔養殖業の方々と共同で浦戸諸島産の海苔をプロデュースし「塩竈浦戸復興のり」と「塩竈浦戸復興藻塩のり」が完成しました。浦戸諸島の海苔と、松島湾産のアカモクを使用した藻塩、そしてエクストラバージンオイルで風味付けをしました。商品開発に合わせて、浦戸のりフェスティバルなどのイベントを開催し、キッチンカーによる製品販売、島内外の小学生を対象にした海苔工場の見学などPR活動を行い、売り上げの一部は浦戸諸島の復興支援金として寄付されています。

 その他にも、手厚い子育て支援を行う愛知県南知多町日間賀島では、特産品の島のりの売上金から、子どもが生まれた家庭に対して出産祝い金を贈呈しています。出産祝い金の取り組みは全国の自治体で見られますが、日間賀島の場合はそれを自治体ではなく民間の漁協と観光協会で行っているのが興味深いところです。また、鹿児島県十島村宝島で始まったバナナ布づくりでは、利用価値のない島バナナの幹から抽出した強靭な繊維を、島に残る伝統的な芭蕉布着物の技術を使い商品化に取り組んでいます。

 限られた資源のなかで営まれてきた島の生産活動とそこで作られる商品は、ソーシャルプロダクツを意図していなくとも、環境配慮や持続性の確保、伝統の継承・保存などの点において、ソーシャルプロダクツ的側面を有しており、離島産品はソーシャルプロダクツとの親和性が非常に高いと言えます。

 現在は、まだ多くの生産者がマーケットを意識した商品づくり(デザイン面での工夫や社会的なストーリーの情報発信などを含む)を行えていないので、その重要性を認識してもらうことで、高付加価値化による新たな市場の開拓や売上増などにつなげられるのではないかと思っています。また、島の自然、島に残る固有の祭り・文化財・芸技なども、わが国の多様性、文化的な豊かさを担保するもので、無形のソーシャルプロダクツになりえると考えております。

 日本離島センターでは、季刊誌「しま」を通じた情報提供や人材育成のための助成、離島の観光・物産等振興宣伝の助成、島の情報発信を行うイベント「しまづくりキャラバン」や「アイランダー」などでの販路開拓、一般の方々への広報支援も行っているため、こうした活動を通じて離島のソーシャルプロダクツ開発をサポートしていきます。