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第二回:ソーシャルプロダクツとビジネスチャンス

 

ソーシャルプロダクツ普及推進協会では、2013 年 1 月 24 日(木)に第2回定例セミナーを開催しました。

当日は、「ソーシャルプロダクツとビジネスチャンス」をテーマに、CSR/CSV を専門とするコンサルタントの水上武彦氏にCSVの考え方とその実例についてご講演いただいたほか、ソーシャルプロダクツによる新しいビジネスチャンスを切り開いた事例として、実際に自社の強みを活かして社会的課題の解決に寄与する商品を開発したマルハニチロ食品の「メディケア食品」と損保ジャパンの「天候インデックス保険」の事例を伺いました。

 

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1.基調講演
水上 武彦 氏(株式会社クレアン CSR コンサルタント)
テーマ 「CSV とソーシャルプロダクツ・イノベーション」

 

水上氏の講演は、CSR(Corporate Social Responsibility)の考え方が広がる中で、新たなアプローチとして登場した CSV(Creating Shared Value)を中心に、ソーシャルプロダクツの創造という視点を交えながらなされました。
ハーバード大学の M.ポーターらによって提唱された CSV とは、企業の事業を通じて社会・環境問題の解決を可能とする考え方であり、「社会にとっての価値」と「企業にとっての価値」を両立させようとする経営フレームワークです。具体的には3つのアプローチがあるとされ、①製品・サービスという企業活動のアウトプット、②バリューチェーンという企業活動そのもの、③企業活動と社会との関係性を通じて、社会・環境問題を解決しようとするものといえます。

 

130124apsp-40とりわけ、社会・環境問題の中でも顧客ニーズが顕在化していないを問題解決に寄与する製品・サービスをビジネス化し、新しい市場を創造するというアプローチは、まさにソーシャルプロダクツイノベーションとも言えるものです。社会・環境問題に対して自社ならではの解決策を提示しつつ、収益モデルを構築するこうしたビジネスは、政府や国際機関、NPO/NGO などとの幅広いパートナーシップが構築できるなど、通常のビジネスとは異なる特長を持っています。このように社会にとっての価値と自社にとっての価値の両立を実現したビジネスの成功例としては、GE のエコマジネーションの戦略や、ホンダの CVCC エンジンの開発・実用化などが挙げられます。

 

CSV の3つのアプローチを詳しく解説した水上氏は最後に、実際に CSV とソーシャルプロダクツイノベーションを推進・実現するための要素として、トップマネジメントのコミットメント、ビジョン/方針の明確化、推進のための仕組み/プロセス整備、ステークホルダー・エンゲージメント、イノベーションを生み出す風土の醸成の5点をそれぞれの事例と共に説明し、ソーシャルプロダクツという観点から CSV の実現に向けた実践的な取り組みの方向性を示してくれました。

 

2.企業活動の事例報告
大和田 耕司 氏(株式会社マルハニチロ食品メディケア営業部メディケア営業課課長)
テーマ「超高齢社会における介護食品事業の展開について」

 

「メディケア食品」は、マルハニチロ食品が展開する新しいブランドで、おいしさと食べやすさを両立した介護食をはじめ、幅広い商品の開発・普及をしています。2020 年には高齢化率が 30 %を超えると予想される中で、介護予防・重度化阻止の必要性は社会的な課題として共有されています。介護状態の予防に向けてはさまざまなアプローチがある中で、とりわけ、食べることによるエネルギーとタンパク質の補給、そして QOL(Quality Of Life)の向上は重要です。特に、対応の難しい摂食・嚥下障害への食事として、これまで施設や病院ではミキサー食やきざみ食が提供されていました。

 

130124apsp-20しかしこれらは、品質の安定化や衛生管理の難しさ、準備にかかる人手の問題のほかに、何よりも味や見た目で何を食べているかわからないなど人間の尊厳に関わる問題を伴っていました。このような問題状況に対して、マルハニチロ食品では見た目はそのままに、やわらかく、食べやすい新しい介護食を開発しました。「メディケア食品」は、物性規格、栄養に配慮、調理作業の効率化、そして何よりおいしさ、見た目の良さを追求することで、食べる喜びをもたらすことを実現。QOL の向上を実現しています。

 

現在、マルハニチロでは介護食品の開発・啓蒙・普及活動を持続可能な社会(超高齢社会)に向けた戦略的 CSR 活動の一環として位置づけて展開しています。同社では、社会配慮型製品の開発や啓蒙・普及、製品・サービスの安全・安心や公正な取引の実現など、まさにソーシャルプロダクツをつうじたマーケット分野の CSR によって「食のバリアフリー化への貢献」をさらに進めるべく、取り組んでいます。

 

関 正雄 氏(株式会社損害保険ジャパン 理事 CSR 統括部長)
テーマ「保険事業を通じた社会的課題の解決――ソーシャルプロダクツへのアプローチ」

 

わが国を代表する CSR 企業の 1 つとして知られる損保ジャパングループでは、国内外でさまざまな社会貢献活動や商品・サービスを通じた社会的課題の解決やさまざまな社会貢献活動に取り組んでいます。1992 年の「リオ・地球サミット」以来、2012 年リオ+20での国連グローバル・コンパクトのコーポレート・サステナビリティ・フォーラムやリオ+20などの会議で紹介された多くの事例をはじめ、企業が多様な社会的課題に対応する動きが世界的潮流となっていますが、その中でも損保ジャパンは保険会社として「PSI 持続可能な保険原則」に署名するなど、持続可能な開発に向けた企業としての役割を果たす姿勢を示しています。

 

130124apsp-46事業における具体的な取り組みとしては、気候変動の影響を受ける途上国支援のために新たなファイナンス手法を研究し、全く新しい保険商品としてタイの農家向け「天候インデックス保険」を開発・提供しています。これはわかりやすい仕組みや現地の事情に対応したマイクロインシュアランスを特徴とするソーシャルプロダクツです。水資源が乏しく、雨水に頼る農法のために干ばつ被害が大きいタイの稲作農家の損害を軽減することを目的として開発されたこの商品は、社会性のある保険事業や商品を志す若手社員が中心になって実現したものでした。

 

損保ジャパンでは、これ以外にも自動車保険の約款 WEB 化にからめた、コスト削減、紙削減、寄付による環境保全活動につながる全国 47 都道府県各地の環境 NPO とともに取り組む Web 約款サービス環境保全活動や、震災 復興支援プロジェクトにおける新商品・サービス開発プロジェクトグラム、プロ・ボノ活動など、CSR 部門と事業部門の連携によってさまざまな社会的な商品・サービスを展開しています。これまでの業務や商品・サービスを通じて培った保険スキルを社会に役立てるという同社の取り組みは、従来の CSR を超え、ソーシャルプロダクツによる企業と社会の新しい関係性を目ざしているものと言えます。

 

マルハニチロ食品と損保ジャパンの事例は、いずれも自社の強みを活かしつつ、それぞれ超高齢社会における QOL の向上や、持続可能な開発に向けた途上国支援という社会的価値を実現している点で、まさに水上氏の言うソーシャルプロダクツイノベーションの事例といえます。イノベーターとしての両社の経験と CSV の理論を結び付けて考えることで、潜在的/顕在的な社会的課題を認識し、他社に先駆けて自社ならではの解決方法を商品・サービスとして提示することの意義を改めて学ぶことができ、実りあるセミナーとなりました。

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