1秒でエコを実感できる商品開発から環境を考えるきっかけを<br>― アサヒビール×麻布大学「森のタンブラー」 ―

2020/11/13

1秒でエコを実感できる商品開発から環境を考えるきっかけを
― アサヒビール×麻布大学「森のタンブラー」 ―

「森のタンブラー」は、スタジアムやイベント会場などで使い捨てされるプラスチックカップを削減するべく、アサヒビールとパナソニックが共同開発したエコカップです。間伐材や食品ロスといった植物繊維が主原料。植物繊維由来の凹凸が生み出すきめ細かい泡は、いつものビールをより美味しくしてくれます。

そうした環境への配慮と美味しさを兼ね備えた「森のタンブラー」は多くの人を魅了し、「ソーシャルプロダクツ・アワード2020」年度テーマ(「プラスチックごみ問題」の解決につながる商品・サービス)の生活者審査委員賞に輝きました。

今回は、アサヒビールと学術指導契約を結び、「森のタンブラー」のプロモーションを通して消費行動の変革に取り組む麻布大学の平井悠誠さん(写真下、左から2番目)が、同商品の開発者である古原徹さん(写真上、以下敬称略)に、商品開発のポイントやコラボレーションを通した新規顧客開拓、今後の展望などについてインタビューしました。

※パナソニックへのインタビュー記事は、コチラからご覧いただけます。

 

■生活者との対話を通して生まれたネーミング「森のタンブラー」

平井:「森のタンブラー」って素敵な名前ですよね。商品名に込めた想いはありますか?

古原:エコの魅力をシンプル、かつダイレクトに伝えることを意識しました。「森の」というキーワードには、「森や自然の恵みから生まれた」、「森や自然を守る」、「エコを楽しむ」など、さまざまな意味が含まれています。

平井:突然ひらめいたのでしょうか?

古原:当初、200個くらい商品名の案を出しました。例えばネーミングに、ビールの泡が美味しくなるといったニュアンスを入れてみたり、植物由来の素材に関する説明をいれてみたり…。

悩み抜いた末、分かりやすくて五感に訴えかける「香るカップ」として試験販売を開始しました。

平井:確かにヒノキを原料にした「森タンHINOKIや、ビール製造で焙煎した後に食品ロスとなってしまう麦芽を原料にした「森タンMUGI」は、香りのインパクトが強いです。「香るカップ」からどういった経緯で、「森のタンブラー」というネーミングに行きついたのでしょうか。

古原:試験販売を通してお客さまと会話する中で、最も好意的にとらえてもらえた商品特徴が、植物繊維を主原料としている点だったからです。

植物や自然、エコを感じやすいネーミングを考えたとき、「森の」というキーワードと、マイタンブラーなどの普及に伴って、カップよりもエコなイメージのある「タンブラー」というキーワードが結びつきました。

平井:生活者の声に耳を傾けてネーミングを考えることは、ソーシャルプロダクツに限らず大切な気がします。

「森のタンブラー」ラインナップ

 

■五感を通して「1秒でエコを実感」できる商品開発

平井:「森のタンブラー」のこだわりを教えてください。

古原:手に取って「1秒でエコを実感」できることにこだわり抜いています。

平井:具体的にはどういった商品特徴にあらわれていますか?

古原:ズバリ3つです。1つ目は、先ほど申し上げた自然由来のヒノキや麦芽などの香り。2つ目は、無垢の木材のようなザラザラした触り心地。3つ目は、原材料そのものに近い色合いです。

平井:五感でエコを実感できるわけですね。

古原:おっしゃる通りです。直感的に「木っぽいね」、「植物っぽいね」と感じてもらえるかが勝負だと思っています。

平井:商品開発で五感を追求するのは差別化につながりそうです。

古原:とくに、手触りや見た目は、開発当初から数えきれないほどブラッシュアップしました。販売開始から1年以上が経過した今も「もう少し色ムラ出したい」など試行錯誤を重ねており、まだまだバージョンアップさせていくつもりです。

平井:1年後にまた森タンを買って、今使っているものと比べてみます笑

アサヒビール イノベーション本部 パッケージング技術研究所 開発第一部 副課長 古原徹さん

 

■新しい文化を創造し、SDGsを達成する

平井:「森のタンブラー」が解決をめざす社会的課題はプラスチックごみ問題だと思いますが、なぜこの問題に着目されたのですか?

古原:仕事のモチベーションとして「新しいモノ・コトを世に発信したい」という想いがもともと強く、3年前ぐらい前に、今新しいことは何かを考えたとき、SDGs(持続可能な開発目標)を知ったのがキッカケです。

平井:2030年までに「誰一人取り残さない」世界を目指すための17の目標ですね!

古原:説明ありがとうございます笑。パッケージの技術開発で最もSDGsに直結していたのが、容器や包装でした。

そのころプラスチックごみ問題が話題になり始めていた時期だったこともあり、プラごみ削減にチャレンジすることを決めました。

平井:アサヒビールのビジネスと具体的にどう関係しているのでしょうか。

古原:平井さんは、スポーツ観戦や音楽フェスなどでビールを飲んだりしませんか?

平井:大好きです笑

古原:そのときのカップって、どんな素材でしょう。

平井:プラスチック製ですね。しかも1杯ごとに捨てています…。

古原:実はアサヒビールだけでも、そうしたイベントで使い捨てされているプラカップは約1,200万個にのぼります。

平井:そんなにですか?!

古原:私が所属するパッケージ技術研究所として、なにか社会的課題を解決するべく、エコなマイタンブラーを持ち歩くことで、プラカップの使い捨て文化をなくそうと考えました。

平井:あえてプラカップに注目した理由はありますか?

古原:生活者が身近に感じやすいジャンルで新しい文化を発信したかったからです。SDGsは、壮大な目標ですので身近に感じにくい人も多いかもしれません。

スポーツや音楽を楽しみながらプラごみを減らして、それがSDGsにつながる、そうした文化をたくさん作っていくことが大切ではないでしょうか。

麻布大学 平井悠誠さん

 

■コラボレーションを通した新規顧客の開拓

平井:ここからは「森のタンブラー」のプロモーションについて伺いたいと思います。森タンを普及させる上で、意識していることはありますか?

古原:森タンは、アサヒビールの人間が、ビールやチューハイなどの商品と同じような宣伝や営業をしても売れないと思っています。

平井:宣伝や営業をせずに商品が売れるのですか?!

古原:平井さんはビールがお好きとのことですが、スーパードライをアサヒビールの社員と、仲の良い友人や家族にすすめられるのでは、どちらの方が飲みたくなりますか?

平井:絶対に後者ですね。

古原:ビール業界は競争が激化しています。いろんなビール会社からたくさんのビールが出ていて、アサヒビールが選ばれにくくなっています。そんなとき、ちょっとでもアサヒビールにファン心があれば、ご本人やその周りの方々に選んでもらえる可能性があがります。

「森のタンブラー」も同じです。いろんな場面で森タンについて「泡がすごいよね」、「エコでおしゃれだよね」と言ってもらえる状態をつくりたいと思っています。

平井:たしかに理想的な状態ですが、具体的にどうすれば実現できるのでしょう?

古原:コラボレーションを通した新規顧客の開拓です。もはや既存のお客さまだけを追い求めていては、ビジネスとして持続的に成長できる時代は終わりました。

例えば今夏、Jリーグのガンバ大阪さんとコラボをして、選手や背番号などがレーザー刻印された森タンを販売しました。

仮に、平井さんがビールは好きだけど銘柄にはこだわりがなく、ガンバ大阪の遠藤選手の大ファンだとします。遠藤選手が刻印された森タンに注がれたスーパードライと、プラカップに注がれた他社さんのビール、どちらを飲みたいですか?

ガンバ大阪とのコラボレーション商品

平井:どんなに値段差があってもスーパードライですね。おそらく次の試合にも持参してスーパードライを飲むと思います。これぞ、コラボレーションを通した新規顧客の開拓なのですね。

森タンの外側にレーザー刻印で自由に装飾できる特徴もコラボレーションを後押ししている気がします。他にも、コラボにつながる工夫や仕掛けなどはされていますか?

古原:鋭いですね。今年の6月に、アサヒビールと一緒に持続可能な社会を実現するパートナーを募るホームページ「FUTURE Tide」を立ち上げました。Tideは「うねり」という意味で、SDGsを達成するための波を起こしていきたいと考えています。

平井:「森のタンブラー」を広めてくれるパートナーを募るホームページということでしょうか?

古原:森タンがその手段になる場合もあると思いますが、あくまでゴールはみんなで社会的課題を解決することです。正直、私は「森タンを年間で何個売る」といった目標を立てることにあまり意味を感じません。

平井:ビジネスと社会的課題の解決を両立するには、売り上げ目標も大切ではないでしょうか。

古原:たとえば、森タンをいくつ売るためにコラボしましょうという提案と、プラごみを減らすためにコラボしましょうという提案では、後者の方が多くのパートナーに共感してもらえると思いませんか?

平井:たしかにそうですね!しかも社会的な目的を追求すればするほど、売上もついてきますよね。

古原:社会的な目的をかかげることで同じ志をもった仲間と団結できること、社会的な目的の追求が売上に直結することは、ソーシャルプロダクツの大きなメリットではないでしょうか。

 

■みんなの力で未来へのうねりを

平井:最後に、今後の展望を教えてください。

古原:「森のタンブラー」の知名度はまだまだです。今後もたくさんの団体や自治体さんとコラボレーションを重ね、いろいろなストーリーや背景をもった森タンを生み出していきたいです。

また、先ほどご紹介した「FUTURE Tide」において、森タンは持続可能な社会を実現する手段のひとつに過ぎません。今、SDGsの達成や社会的課題の解決に情熱を燃やす人は増えてきていると思います。そういった方々と、アサヒビールの既存の事業領域にとらわれず、未来へのうねりを起こせるようなプロジェクトを立ち上げていきたいです。

平井:とてもワクワクするお話の数々、ありがとうございました。

 

【インタビューアー】麻布大学 生命・環境科学部 環境科学科 平井悠誠

近年、海洋ゴミ問題が深刻化し、海や砂浜には様々なゴミが散乱している。使い捨てゴミを減らすため、アサヒビールと麻布大学の共同プロジェクト「1杯からはじめよう!脱・使い捨てAction」に参加し、「森のタンブラー」普及に向け活動。学内の使い捨てゴミの見直しや、タンブラーを使ったイベントや企画会議を通し、使い捨て製品のあり方・削減・代用を考えている。「森のタンブラー」を多くの人に知ってもらい、エコで、オシャレで、楽しく、ゴミを削減していきたいと思っている。

 

【参考】

「FUTURE Tide」https://futuretide.jp/

「森のタンブラー×麻布大学 Twitterアカウント」https://twitter.com/moritanazabu

この企業について

アサヒビール株式会社

東京都墨田区吾妻橋1-23-1

https://www.asahibeer.co.jp/

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