ソーシャルプロダクツ・アワード2021 <br>オンライン応募説明会 パネルディスカッションA<br>レポート -SDGs時代のソーシャルプロダクツ-

2020/10/16

ソーシャルプロダクツ・アワード2021
オンライン応募説明会 パネルディスカッションA
レポート -SDGs時代のソーシャルプロダクツ-

7月29日に開催されたソーシャルプロダクツ・アワード2021 オンライン​応募説明会にて、現在大きな潮流となっている企業によるSDGsの達成について「SDGs時代のソーシャルプロダクツ」と題したパネルディスカッションを行いました。昨年まで大きく盛り上がっていたSDGsの流れがコロナ禍によってどのような影響や変化があったか、その影響下で企業は今後いかなる取り組みが求められていくのか、といったテーマで有識者の方々にお話を伺いました。

 

【タイトル】SDGs時代のソーシャルプロダクツ

【パネリスト】経済産業省 経済産業局 産業資金課  佐久秀弥氏

       農林水産省 食料産業局企画課  黒岩卓氏

       専修大学商学部教授 ソーシャルプロダクツ普及推進協会理事 神原理氏

【モデレーター】一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会(以下APSP) 専務理事 中間玖幸

中間: 本日のパネルディスカッションにご登壇いただくパネリストの方々をご紹介いたします。経済産業省にて主に金融の立場からSDGsによる企業価値向上について取り組んでいらっしゃる佐久秀弥様、農林水産省にて途上国・先進国を含めた世界の栄養課題について取り組んでいらっしゃる黒岩卓様、長年ソーシャルプロダクツの研究に取り組まれ当協会の理事でもいらっしゃる専修大学商学部教授の神原理先生、以上の3名です。最初に、皆様から自己紹介をお願いいたします。

佐久:経済産業省では1年前ほど前に、「SDGs経営ガイド」を公表しました。SDGsをどのように企業経営へ取り込んでいくか、企業価値の向上につなげられるかという視点で、先進的な取り組みをされている企業・有識者・投資家の方々にご参加いただきながら、ガイドをまとめました。本日もそのガイドの内容を中心としながら、より意義があるSDGsへの取り組み方についてお話させていただければと思っています。

黒岩:農林水産省食料産業局は食品企業の発展や途上国の栄養改善を支援しています。また、新型コロナウィルス感染症の影響で1年延期になってしまいましたが、オリンピック開催国で実施される栄養サミットという国際会議の開催に向けて、日本の食品企業の皆さんとSDGsの達成に向けた取り組みについて議論しています。途上国の栄養改善に向けた取り組みとしては、日本企業と途上国の食品事業者のパートナーシップによって地元の産業を作っていくこと、途上国において栄養教育を行うことが必要だと思っています。農林水産省ではこのサミットにおいて、日本企業をアピールすると同時に、栄養改善に取り組む世界各国の方々と一緒に、課題解決のためには今何が足りないのか・どういう支援が必要なのかといったことを考える円卓会議を計画しています。

神原:専修大学商学部では、ソーシャルビジネス、サービスマーケティング、商品評価といった科目を担当しています。個人的には、ソーシャルプロダクツを中心とした社会的消費をどのようにすれば世の中により普及できるか、社会的消費と幸福度の関係などについて研究しています。APSPは設立当初から理事としてお手伝いさせていただいています。またAPSPにおいて2013年から社会的消費に関する生活者アンケートを実施しているため、過去や本年7月に行った最新のアンケート結果をふまえて、本日はお話できればと思っております。最後に専修大学でのゼミの活動についてですが、ゼミ生が特定非営利活動法人パルシックさんのサポートを受けて、フェアトレードの紅茶やワッフルを売る取り組みを4~5年行っています。また今後は、ロータスコンセプトさんの大麦ストローを通して環境意識を高めるソーシャルプロモーションも行っていく予定です。SNSを駆使して週に2回フェアトレードに関する情報発信をしていますので、ぜひいいね・フォロー・拡散をしていただけましたら嬉しいです。

中間:ありがとうございました。それではこれより、パネルディスカッションのテーマでお話を進めてまいります。

 

■新型コロナウィルス感染症の拡大とSDGs

中間:昨年までSDGsが非常に大きな潮流になっていました。その中で今年の初めに突然やってきたのが新型コロナウィルス感染症です。新型コロナウィルス感染症の拡大がSDGsの潮流に与えた影響について、それぞれ行政の立場・生活者の視点からお話いただけますでしょうか。

黒岩:私は平成元年(1989年)に社会人になったのですが、その年に起こった2つの大きな出来事が天安門事件とベルリンの壁崩壊です。これにより世界が統一経済になりグローバリゼーションが急速に拡大したことが、今のSDGsの背景としてあります。このグローバリゼーションをどう考えるかというのが、SDGsのとても大事なポイントになると思っています。世界中で人・物・金・情報があっという間に行き交う便利な社会になりましたが、今回の新型コロナウィルス感染症においては、負の作用としてウィルスも世界中にあっという間に広がっていくことが、実証されてしまいました。正の作用だけでなく負の作用もあっという間に拡大する社会で、何をどうすべきかを、SDGsという観点で考えなければいけないと思います。

佐久:これまでのSDGsは社会的意識の高い一部の人々が取り組んでいる面もあったかと思いますが、SDGsの3番にもある健康のテーマについては、新型コロナウィルス感染症の拡大を経て多くの人々が強く意識するようになると思います。また海外投資家の中では、コロナ禍においてはSDGsよりも企業の生き残りのほうが重要だという意見がある一方で、このような状況だからこそSDGsがさらに重要だという意見もあります。世界的な潮流を考えると、コロナ禍におけるSDGsの取り組み(の進退)は両極化しています。企業が取り組むべきテーマとしてSDGsの重要性は増していますが、このような状況下では企業がSDGsをビジネスに活かす余裕がないのも事実です。企業が存続していくためのビジネスモデルの見直しとSDGsの両立をどう実現するかを、企業の皆さんは懸命に模索している最中だと感じます。

神原:コロナ禍において、地方の農林水産業に関わる人々をSNSで発信し、応援消費を行う互助的な関係が生まれています。またAPSPがこの7月に行ったアンケートでは、新型コロナウィルス感染症の拡大を経て、生活者の健康への関心や自助努力・公助の重要性、地域経済低下の危機感の高まりが見てとれました(図1)。おそらく、近所のお店がつぶれていくのを目の当たりにしたなど、自分の身の回りから地域社会を見直すキッカケが生まれてきているのではないでしょうか。これは多くの人の目線が地域社会に向いてきている証拠であって、そこから応援消費など互助の関係も形作られているのは良いことですね。また働き方や暮らし方が変わってきている中で、地方の良さが見直され、地域活動に関わる人が増えていくのではないでしょうか。あと2~3年するとニューノーマルな生活スタイルが確立されてくるのではと思います。

(図1)APSPが2020年7月に行ったアンケートより

 

■企業には、SDGsの視点を持ったビジネスモデルの改善・共創・情報発信が求められる

中間:既存の生活スタイルやビジネスのあり方が大きく変わっていく流れの中で、SDGs実現のために長期的な視点で企業に求められていることはありますか。また、企業がSDGsへ取り組むためのヒントを、皆様それぞれの立場からお伺いできればと思います。

佐久:SDGsの視点でサプライチェーンの見直すことが、ビジネスモデルの改善にもつながるのではないかと思います。例えば、輸送費が削減され結果的に環境へも好影響となる等が考えられます。SDGsというと17のゴールのどれに当てはまるか、企業が生産する商品にどのゴールのラベルをはるかといったことを注視しがちですが、それだけにとどまらず企業活動のあらゆる局面でSDGs的な発想を取り入れることが大切だと思います。コロナ渦において企業のビジネスモデルの変革が強く問われており、いかにビジネスをアップデートしていくかという課題に企業の皆さんは直面されていると思います。SDGsを念頭においてビジネスの見直しを議論することで、SDGs達成に向けた企業経営に近づいていきます。その結果、企業価値も高まりSDGs自体も達成されるという好循環が生まれると思います。

黒岩:リアルなコミュニティが作れない中、生活者と社会の関わりを考えるのが大事だと感じています。場所や時間を超えて色々な人が色々な価値観で接点を持てると、イノベーションや価値観を産むキッカケになるのではないでしょうか。個人と企業、個人と行政など様々なステークホルダーが柔軟に付き合える社会ができてくると、新しいステージにいけるのではないかと思います。また、SDGsの達成に向けた大きなビジョンのもとにパートナーシップを組み、ビジョンを実現するためのプロセスを策定する場づくりが重要です。行政機関は民間同士がパートナーシップを組むためのナビゲーターとなり、プラットフォームとしての役割を担っていく必要があると思います。

中間:共創というテーマで私共もよく企業様とお話をさせていただくのですが、色々な団体や個人が関係性を広げることで、今の状況を打破していくことが必要な局面にあると感じています。神原先生はいかがでしょうか。

神原:APSPの調査では、企業の社会的取り組みに対する生活者の評価は、その内容を問わずに高いことが明らかになっています(図2)。企業の方にはもっと社会的取り組みを実施して、情報発信をしてほしいです。また生活者からは、どれがソーシャルプロダクツか分からない、社会的取組みについて企業にもっと発信してほしい、という声がありました。社会的取り組みに対する感度の高い人は3割ほどいるため、その人たちに響くようなコミュニケーションができれば、よりソーシャルプロダクツのマーケットが広がるのではないかと思います。

また企業の方から「SDGsと言うけど何をしたらいい、何を作ったらいいのでしょうか」と聞かれることがありますが、モノ(商品)だけでなくコト(サービスやイベント等)でもいいんです。プロダクトとは、人間が生産したもの・生活の中で作り出していくものを指します。モノだけでなくコトでもいいので、それぞれの企業の創業の原点や強みに立ち返って、SDGsの観点からどんなことができるかを考えてもらえればと思います。

(図2)APSPが2020年7月に行ったアンケートより

 

■SDGsへの取り組みは、収益以外にも企業へプラスの成果をもたらす

 社会的課題の本質的な原因を考えることが、SDGs達成への一歩

神原:今回の新型コロナウィルス感染症をキッカケとして、色々な側面で、少し厳しく言うと淘汰が始まっている気がしています。学生には、ある意味で今は時代の転換期であり、これをビジネスチャンスと捉えている人は必ずいて、半年~1年経れば新しいビジネスが必ず出てくるはずだから、それがどういったビジネスなのかを注意深く観察した方がいいと伝えています。今回の新型コロナウィルス感染症の拡大とSDGsに際して、どういう機会があるのか、何ができるのかという発想・視点を持つことが重要ではないかと思います。

昔も環境問題に関するビジネスは儲からない・割に合わないと散々言われてきましたが、ある時、投入したインプット(資源)とアウトプットのバランスさえとれればエコは割りに合うという見方になってきました。これと同じようにSDGsは割りに合うか?という発想をすると、インプットに対するアウトプットを収益という指標以外で考えることもできます。SDGsに取り組んだことで社員のモチベーションが上がった、意欲的な新入社員が採用できた、企業のブランド価値が上がった、地域の人たちからの支持が高まった、などのアウトプットもお金と同等もしくはそれ以上の価値だと思いませんか。

2014年度にソーシャルプロダクツ・アワードを受賞した飛騨産業株式会社(岐阜県高山市にある家具メーカー)が現地の杉の木を使った家具を作って環境問題に取り組み始めたところ、首都圏の大学からたくさん就活のエントリーがあり、それを受けて従業員の方々も自分たちの会社のすごいところを再認識し意欲が高まった、入社した若い人たちから刺激も得られているというお話を伺いました。

SDGsには17目標のものさしがあるので、色々な視点でインプットとアウトプットを見ていくと、どこかでSDGsが割りに合うところが出てくるのではないでしょうか。

黒岩: SDGsの17の目標は課題のため、それをどう解決するのかを考えなければいけないわけですが、可哀そうという視点ではなく疑うことがとても大事です。例えば飢餓の問題であれば、飢餓がなくならない原因を考えなければなりません。先進国から途上国に食料を送ると一時的に栄養は満たされますが、それにより人口が増えてまた飢餓が生まれる、といういたちごっこになってしまいます。モノをあげるだけでは飢餓は本質的に解決しないことをしっかりと考えることが重要です。またボルネオの森林破壊においてパーム油が問題視されていますが、パーム油の生産工程に携わっている地元の人々はそれにより現金収入を得ることで子どもたちが学校に行き、教育を受けられるという面もあります。果たして、パーム油の生産は悪と言っていいのか、どうすれば問題解決との折り合いがつけられるのかを考えることが、本当の課題解決なのです。課題に対して、それが悪いことだから変えようとするのではなく、課題が解決できない本質的な原因はどこにあるのかを考える。そういった意識をぜひ持っていただきたいです。

 

■SDGs・ソーシャルプロダクツを通したより良い社会の実現に向けて

中間:それでは最後に、SDGs・ソーシャルプロダクツに取り組もうとする企業の方々へメッセージをお願いします。

佐久:現在はトランザクション・変化の時期で、明快な答えがあるわけではありません。各現場で各自が悩みながら具体的にSDGsの活動に取り組んでいく中で、答えが見出されていくと思います。我々も冒頭に申し上げた「SDGs経営ガイド」を公表しておりますが、引き続き色々なところで各企業の方々と意見交換をしながら、どうすればより良い社会が実現できるのかを考えていきたいと思っています。

神原:今までAPSPで実施してきた調査を通して言えることの1つは、社会的行動(寄付・ボランティア・ソーシャルプロダクツを買う等)は自分自身の幸福度を高める効果があるということです。ですので、ぜひソーシャルプロダクツの普及に皆さんで取り組んでいければと思います。ソーシャルプロダクツ・アワードへのエントリーもお待ちしています!

黒岩:今後の社会像として3つの新しいイメージがありますので申し上げます。1つ目は個人の可能性を高める社会、2つ目はコミュニケーションが自由になることでたくさんのワンチームが生まれる社会(いろいろな価値観の人々が集まれる社会)、3つ目は自分の人生を使い切ることができる社会(場所や立場に制限されず色々な事に挑戦できる社会)です。このような社会・新しい時代がくると考えれば、この新型コロナウィルス感染症の状況は大変ですけれども、コロナの先に新しい良い未来が感じられるのではないかと思っています。

中間:本日はありがとうございました。

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(パネルディスカッションを終えて)

パネリストの皆様全員が、コロナ禍におけるSDGsへの大きなインパクトを強く認識していました。コロナ禍に対応する企業の変革は始まったばかりですが、浮き彫りになった企業の課題をSDGsの視点で見直し、ビジネス変革のチャンスと捉えることが出来れば、日本企業の成長の可能性はまだまだ広がるのではないでしょうか。産官学それぞれの立場から知恵を持ち寄って共創を産み出せるような場を、今後もAPSPとして実現していきたいと思います。

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