【寄稿】私が出逢った < Disabilities >

2020/08/31

【寄稿】私が出逢った < Disabilities >

私が出逢った < Disabilities >
~アイコン・ポップス・イーストエンド 英国から得たヒント~

 

ソーシャルプロダクツ・アワード(SPA)2021の年度テーマは「障害者の生きがい・働きがいにつながる商品・サービス」。障害者雇用や広めるに資する、魅力的な応募主体を受け付けている。7月29日のオンライン説明会のトークテーマ「障害者雇用とマーケティングを統合するには」で、今年度のアワード審査員に迎える識者の3名にパネラーとして参加していただき、雇用やマーケティングなど、積極的に障害のある方々とコラボする社会づくりに必要な視点を提供いただいた。「いいもの・おいしいものをつくることにこだわる」と話されたNPO法人ディーセントワークラボの中尾文香さんのコメントが印象的だった。ソーシャルプロダクツの質の高さも、今後は買い手の生活者にとって重要な視点となるのではと思う。

過去のSPAではこれまでも、2018年・2020年度と連続受賞している「さっこらProject」の残反を裂き織にしたデザイン小物、伝統工芸をユニバーサルデザインに生まれ変わらせた2015年度の「楽前腕」、 ラオスの作業所から生まれた2020年度自由テーマの手織り・自然染め商品「Fran Muan」など「障害者支援」枠であるものの社会性が多岐にわたり、商品性も高い商品の数々が選出されている。「支援」というと大ごとに感じられるが、実際は開発・提供過程に障害を持つ人々の参加を得ていることで、地域を元気に、笑顔にする「地域の活力向上」などとのダブル事例も多い。今年もどんな商品・サービスとの出会いが生まれるか協会一同が楽しみにしているが、ご賛同いただける皆様にも、SPA2021に是非ご注目いただきたい。

「障害者支援」を考える前に「障害(Disability)」について、自分が果たして正しい捉え方が出来ているのか。出来ていないのかもしれないが、大学を卒業してからだいぶ経つので、もう一度再考してみたいと考えた。障害に直面するきっかけを得た自分の過去を振り返り、英国由来で時系列に3つ話題提供する前に、WHO(世界保健機関)が定める「Disability」の定義を確認し、昨今の社会環境変化にみるポイントを抽出してみたい。

 

(一部意訳)
・女性は男性より、老人は若者より対象となりやすいこと
Women are more likely to experience disability than men and older people more than young.

・昨今は身体の問題や医療の観点で捉えるだけでなく、個人が持つ社会的、政治的背景まで含めて考慮するように障害の考え方がシフトしていること
In recent years, the understanding of disability has moved away from a physical or medical perspective to one that takes into account a person’s physical, social and political context.

 

後者に「ソーシャル」と出てくるが、個人が持つ社会文脈とは、私なりに言い換えれば個人がもつプライベートな問題で、表面上一見わからなくても、誰もが抱えている問題の可能性を示唆する。潜在的で、外見だけでは判断できないという障害の捉え方を軌道修正してくれる。
 

これから紹介する3つの事例の1つはユニバーサルデザインで、ロンドン五輪の行われた2012年まで振り返る。2つは、英国生まれのボーイズバンド、ワン・ダイレクションのポップスで2013年の楽曲へ。最後に私の個人体験に基づく話で、2015年冬のロンドンのまちの風景に想いを馳せる。あくまで最新でも5年も前のことなのでやや古い情報だが、色あせない「障害を考える」ヒントに再注目してみたい。

 


 

エースホテル LONDONにみるDisability

バリアフリー対応の階段に表示されたアイコン(左)とアクセシブルアイコン(右)

 

2つのユニバーサルデザインを紹介する前に、そもそも私がなぜ英国をケーススタディに選ぶのか説明しなければならない。2012年ロンドン五輪(オリ・パラ)に遡ると、日本でもテレビやネットで話題となったロンドン五輪のオープニング・セレモニーは、英国が誇る歴史物語やアーティストらの音楽がショーケースのように演出され、今見ても色褪せず、記憶に残る華々しさだ。英国留学を経験したり、イギリス文化を少し齧ったことのある方はピンとくるだろう著名な芸術振興組織、ブリティッシュ・カウンシルには「アートと障害」の項目も設けられている。
 

ロンドン五輪では、文化プログラムのひとつとして、障害のあるアーティストの創造性溢れる活動を支援する「アンリミテッド(Unlimited)」というプログラムが展開されていた(五輪時の成功を受けて、2012年以降も継続)。そこでは2020年東京開催に向けても会場周辺で実装が準備されていた画期的な「記号」がすでに取り入れられ、バリアフリーやインクルーシブの視点を取りいれた施策で国際社会から評価が高かった(と当時、私は大学教授から習った)。

私が渡英した2015年、ロンドンで利用した宿泊施設エースホテルロンドン・ショーディッチ(Ace Hotel London Shoreditch)で見つけたのは、障害者マークをよりアクティブでポジティブに変換したという「アクセシブル・アイコン」をさらにポジティブにした車いすユーザーの「万歳」のクリエイティビティである。もちろん、駆けるような「アクセシブル・アイコン」も、世界共通認識がとられた旧来の静的な車いすシンボル(1969年、国際リハビリテーション協会により採択)の印象を変え、私たちが車いすユーザーに持つ無意識のバイアスまで自覚させた。

*出典*
アクセシブル・アイコン(修正ISA)プロジェクト
-東京都「2020年大会開催準備」のページ

 


 

②One Directionのミュージックビデオに見るDisability

ワン・ダイレクションの2013年の楽曲「Midnight Memories」のシーン

 

2010年にデビューし、メンバーの解散などあったものの、今年で結成10周年を迎えたボーイズ・バンド、ワン・ダイレクション。英国で「アイドル」の登場は珍しく、一時期はビートルズの再来のようにもてはやされ、日本でも人気が急上昇した2013年頃、発表された「Midnight Memories」のミュージックビデオから引用する。
動画の始まりに登場するのは、海外ティーンの自宅や西欧でよく見かけるケバブ屋のシーン。その後、曲の折り返し付近で赤いスクーターに乗ったおばあちゃんが出現し、メンバーと斉唱するのが写真のワンシーンである。当時、この短い演出に注目しただけでも、英国らしいインクルーシブなメッセージを受け取ることが出来た。

音楽、映画などの表現物にインクルーシブの視点を取り入れる意識はますます高まり、今では広告における肌の色や性の描写にもケアが及んでいる。ティーン負けず劣らず、高齢者を元気にファンキーに描くという要素も、ひとつの「心のバリアフリー」視点と考えられる。
齢を超えて戯れ合う彼らの愛嬌は、静止画では伝わらないものがあるので、動画の特に後半に注目して是非ご覧いただきたい。

 

*出典*
One Direction – Midnight Memories(当該シーンは1分37秒以降)

 


 

ロンドン東部「ベーグル・ベイク」の店先で出会うDisability

 

 

寒い雨のロンドン2015年11月末、Blick Laneのベーグル屋前
(この後、右に映るイヤーマフラーの男性とダンスを踊らされることになった。)

 

最後は私の個人的な体験話で締めくくる。イギリス、ロンドン東部のブリック・レーン(Brick Lane)というスポットは、日本の旅行媒体で「芸術的/エッジー/ヒップ」なエリアなどと紹介され、若者を中心に流行の発信地として注目を集める地区であるが、歴史に注目すると、東部は古くから地域課題の縮図のような場所でもある。観光ガイドからの印象と現場を歩く印象は異なり、私が初めて足を運んだ際も、現地での濃厚な体験(視覚情報だけでなく、街の匂いなども含む)で、その印象は「おしゃれ」以上に独特なものに塗り替えられた。

そんな地区で「ロンドンで一番有名な老舗ベーグル店」と名指されるベーグル・ベイク(Beigle Bake)という店で、2015年の訪問時、足が不自由で車いすに乗っている方が、私の後ろで、立っている我々と同列に紛れ、車いすで並んでいた時のこと。

海外で、ベーグル屋のメニュー掲示というものは(これまで自足を運んだのみの他店比較だが)大体購入する側からは遠い、店の奥の壁の高いところに書かれている。さらに英語表示を端から端まで眺めて、理解して、自分の番が来たらカウンターで注文するという、英語の発話もたどたどしい初心者にとっては慣れないフローに、背伸びしてしまうほど、意識は頭のてっぺんまで緊張が及んでいた私だが、その時ふと、自分の背後のすぐ後ろの足元からのぞき込まれている目、頭を揺らしてメニューを見ようとしている車いすの存在に気づいてびくっとした。

その人は、後ろを振り向いた私と目が合うと、むっつりと周囲を睨みつけるような表情を変えて、一瞬「ニヤリ」と笑みを向けた。当時はお怒りを受けなかっただけでホッとした気がするが、背中や足元の方に迂闊だった自分の不甲斐なさへの反省と、その人の顔が今も頭から離れない。あの人は日常的に、街の全てのものを自分の腰くらいの視野から見ているのだという不自由さを、一度で認識させられる機会だった。

体の不自由な方のために何か設けるなら、それぞれの世界が分岐したまま、住みやすい街づくりも可能となるが、分け隔てなく接するというフラットな精神では「同じ列に並ぶ」というシーンは世界のどこでも発生する可能性がある。二つの異なる対応の狭間で揺れる自分の心にも気づかされる。

あれから約5年の今日、SNSで聞きかじった情報で見つけた、”Not all the disabilities are visible.”(見た目ではわからない障害もある)というフレーズは心に残るものがあった。これはロンドンの地下鉄車内の優先席表示で、もちろん、アンダーコロナ以降、私自身が現地に行ってこの目で確かめた訳ではなく、在英アーティストの方の投稿で知ったのだ。

イギリスの市内の街には昔から、こうして少しシニカルな形で、日頃の生活の中でダイバーシティに気づかせる工夫、町の人を住みやすくする工夫が諸所に張り巡らされているように思える。2020年現在、誰もが海外に想いを馳せることしか出来ない状況下にあるが「誰も取り残さない」世界の先進的なアイデアから、デジタルデバイス越しに学び、障害をもつ方々と接する際、ものづくりの精神にふれる際の視点に生かすことはできるだろう。

 

PR 腰塚 安菜

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