【ソーシャルプロダクツ・インタビュー】<br>エタノールの力で、循環型社会を実現「お米とりんごの除菌ウエットティッシュ」—株式会社ファーメンステーション—

2022/03/24

【ソーシャルプロダクツ・インタビュー】
エタノールの力で、循環型社会を実現「お米とりんごの除菌ウエットティッシュ」—株式会社ファーメンステーション—

独自の発酵技術でエタノールを生み出す、株式会社ファーメンステーション。コロナ禍で除菌の需要が高まる中、りんごの絞り粕とお米から製造されたエタノールで、除菌ウエットティッシュを開発しました。製造工程でゴミを一切出さないサーキュラーエコノミーの仕組みを実現した点が評価され、「ソーシャルプロダクツ・アワード2021」ではソーシャルプロダクツ賞を受賞しました。今回は、事業を始めたきっかけや商品のこだわり、ごみを生み出さない徹底された製造工程などについて、代表取締役の酒井里奈氏にお話を伺いました。

(インタビュアー・APSPインターン 馬目)


天然由来99%、柔らかい手触り。誰でも安心して使えます!

馬目:改めて、ソーシャルプロダクツ賞の受賞おめでとうございます!
「お米とりんごの除菌ウエットティッシュ」の、一番のアピールポイントを教えてください。

酒井:日常生活で使うものって沢山ありますけど、環境に配慮した原料を使用した商品は少ないですよね。環境に配慮した製法や、有効活用されていなかった資源から作った原料が入っているのが一番のポイントです。「サステナブルなものを日常に取り入れたい」という人におすすめです!
あとは、一般的な除菌ウエットティッシュは石油由来の物質が入っていることが結構多いのですが、この商品は天然由来成分99%です。お子さんにも安心して使えますし、誰でも肌に優しく除菌できます。

馬目:肌に優しく除菌できるのは、コロナ禍の日常において魅力的ですね。お客様からの反響はいかがですか?

酒井:使っていただくと分かるのですけど、除菌用品特有のツーンとした匂いが少なくて、「身の回りの物に気軽に使える」とおっしゃる方が多く、好評です。

馬目:手触りもすごく柔らかくて、除菌ウエットティッシュとは思えないです。

岩手県の休耕田から、事業スタート

馬目:ファーメンステーションさんは独自の発酵技術をお持ちですよね。エタノール開発に取り組み始めたきっかけは何だったのですか?

酒井:13年以上前、お米からバイオ燃料を作る提案を受けたことです。
当時私は、東京農業大学で生ごみからバイオ燃料を作る研究をしていました。ある日、岩手県の胆沢町(現在は奥州市に合併)の方たちが大学にいらして、共同研究のお誘いを頂きました。具体的には、休耕田にお米を沢山植えて、車を走らせるバイオ燃料を作るというアイデアでした。面白そうだったので、ご一緒させてもらったのがきっかけです。

馬目:たしかに面白いアイデアですね。なぜ、農家の方々は大学までわざわざいらして、そのような提案をしてくださったんでしょうか。

酒井:日本全国の田んぼの4割が休耕田や耕作放棄地で、あまり有効活用されていません。日本の人口が減っているのと、お米以外のものも食べるので、消費が落ちているからです。そういった状況を懸念して、食用以外の用途で休耕田の有効活用方法を考える必要がありました。

馬目:もともとのバイオ燃料から、化粧品の開発に転換した理由はありますか。

酒井:コスト面が難しかったので、車の燃料は諦めて、化粧品や日用品の原料に転換しました。今は、オーガニックのお米から作ったエタノールや、色々な種類の発酵物をエキス原料として売ったり、その原料を利用した商品を開発して販売したりしています。

馬目:エタノールの開発過程で、苦労されたことはありましたか。

酒井:沢山ありました。まずエタノールを作るビジネスは一般的ではないので、製造装置は販売されていません。試験管レベルなら分かるけれど、ちゃんとした製品を作るためにはどうすればいいのかが分かりませんでした。
ですので、装置を作ってくれる会社を探すところから始めました。無事に装置を作ってもらうことができましたが、品質の良いエタノールを安定して作るのは難しく、ベストな技術を見つけるまで何年もかかりました。

有機JAS米、りんごの絞り粕。あらゆる資源を有効活用

馬目:「お米とりんごの除菌ウエットティッシュ」の原料である、お米のエタノールはどのように製造されるのですか?

酒井:奥州市の仲間の農家さんたちが栽培した有機JAS認証を受けたオーガニック米を使用しています。そのお米を弊社の工場で発酵・蒸留させて、エタノールを製造しています。このエタノールは、日本で唯一、オーガニック認証取得しているんです。

馬目:日本で唯一のオーガニック認証はすごいですね!
お米のエタノールだけではなくて、りんごのエタノールも利用したのはなぜですか?

酒井:JR東日本スタートアップ株式会社(以下、JR東日本)さんが2018年に開催した、ビジネスコンペへの参加がきっかけです。その際、JR東日本さんに「弊社の技術を使って、未利用資源を無くす取り組みがしたい」想いを伝えました。
JR東日本さんは青森駅の近くにシードル工房を持っていて、コンペの時にたまたまその工房と関わりのあった方がいらっしゃいました。その方に「りんごの絞り粕を活用することはできますか?」と聞かれたので、「できるかまだ分かりませんが、やります!」と返答し、コラボレーションがはじまりました。技術的に大変で時間もかかりましたが、何とかりんごの絞り粕からエタノールを取ることに成功しました。

馬目:りんごのエタノール作りに成功したあとは、どんな取り組みを行いましたか?

酒井:エタノール製造には成功しましたが、原料を作るだけでは何にも意味がなくて、それを商品として世の中に広める必要がありました。そこで初めに商品化したのが、りんごから作ったエタノールが入ったアロマディフューザーとルームスプレーです。これが大変好評でした。
その後のコロナ禍で、除菌が果たす役割が非常に大きくなりました。沢山の人に届きそうなものを考えた結果、お米とりんごのエタノールを利用したウエットティッシュを思いつき、商品化に至りました。

大企業二社と共同開発。多くの人に商品を知ってもらうきっかけに

馬目:「お米とりんごの除菌ウエットティッシュ」は、他の企業さんともコラボして開発されたのですよね。

酒井:はい。JR東日本さんだけでなくアサヒグループホールディングス株式会社(以下、アサヒ)さんと、三社合同で開発しました。当社のようなベンチャー企業は、色んな企業さんにプレゼンしに行きます。ある時、アサヒさんに弊社の技術をお話したら、興味を持ってくださって。アサヒさんのりんごのお酒「ニッカシードル」の製造工程で出る、りんごの絞り粕を使用させていただくことになりました。

馬目:二社分のりんごの絞り粕が入っているということですね。

酒井:JR東日本さんと既にりんごでコラボしているのに、別の会社さんとりんごでまたコラボって珍しいのですけど。「どうせだったら一緒にやりましょう」とJR東日本さんが言ってくださったので、三社で共同開発することになりました。オープンイノベーションって言いながらも、やはり一社のみのお付き合いが多い中で、三社コラボは面白かったですね。

馬目:いわゆる大企業の二社と提携することで、どんな恩恵がありましたか?

酒井:ベンチャー企業はクイックに成果を出せますが、世の中にその成果を広げる力が弱いです。ですが大企業さんとご一緒することで、プレスリリースで紹介されたり、メディアに取り上げられたり。世の中から信頼されている企業とコラボすることで、多くの人にこの商品を知ってもらうことができました。
 

徹底された「ゴミを出さない」仕組み

馬目:製造工程で意識していることなどはありますか?

酒井:りんごの絞り粕からエタノールを作って商品にすると、その「絞り粕の粕」が出る。いったん何らかのアップサイクルをしても、そのあとの粕をどうするのか。さらにごみを増やすのは本末転倒です。そこもちゃんと取り組もうと思いました。
もともとお米からエタノールを取った後の粕は、化粧品の原料や地域の家畜の餌にしていたので、りんごでもチャレンジしようと。りんごの「絞り粕の粕」を、近隣地域の牛に食べていただいた、食いつきが良く、とても良い餌になりました。その餌を食べて育った牛の肉をJR東日本さんが買ってくださって、JR東日本さんが運営するホテルでその肉を使ったメニューが提供されましたし、近隣の養鶏農家さんにも使っていただいています。
このように、製造工程で発生した資源を、価値のあるものに変換させるようにしています。そういった商品を使うことで、アップサイクルのシステムを支援できる。そういった仕組みづくりに注力しています。

馬目:使うことで、その商品の製造工程を応援できる。消費者と生産者がお互いを思いやる、素晴らしい取り組みですね。

より多くの人に、未利用資源を活かした商品を届けたい

馬目:最後に、御社の今後の目標を教えてください。

酒井:循環型社会を実現するために、とにかく未利用資源を活かすことを目指しています。お米やりんごの絞り粕などから生まれた商品、という事例を見せることはできていますが、まだまだ世の中に広まっていません。
「未利用資源から生まれた商品を買いたい」と生活者に思ってもらえることが必要だと思っています。サステナブルとは関係なく、「使いたい」と思える商品を作り続ける企業努力も勿論ですが、開発背景をきちんと伝えることで、そのような商品を「使いたい」、というムーブメントを起こしたいです。

馬目:今後も様々な未利用資源を活用していくご予定ということですね。

酒井:そうですね、いっぱいあります!言えないものもあります(笑)種類だけではなくて、生産量も増やしていきたいです。すでに使ったことのある原料も、もっと色んな商品に広げていきたいので会社のメンバーと全速力で取り組んでいきます。

馬目:本日は臨場感のある開発秘話をたくさん聞かせていただき、本当にありがとうございました!

【取材を終えて】
「お米とりんごの除菌ウエットティッシュ」は非常にまろやかな手触りで、初めて使ったときは驚きました。そして、こだわり抜いた製造過程のお話も非常に印象的でした。製造過程を知った上で使用することで、今後も使い続けたくなる商品だと思います。今後どんな資源を使って商品開発されるのか、とても楽しみになりました。

【インタビュアープロフィール】
東京女子大学 現代教養学部 APSPインターン 馬目有依子
ジェンダー平等、オーガニック製品などに関心を持つ。大学ではジェンダー学のゼミに所属。APSPのインターン生として、記事執筆などに取り組む。

この企業について

株式会社ファーメンステーション

東京都墨田区横川1-16-3 センターオブガレージ Room08

https://www.fermenstation.jp/

企業ページ

各種お問い合わせ

お気軽にお問い合わせください。