沖縄でしか造れないビールで、地域とともに資源循環型産業を目指す ―オリオンビール株式会社「オリオン ザ・ドラフト」―

2021/07/29

沖縄でしか造れないビールで、地域とともに資源循環型産業を目指す ―オリオンビール株式会社「オリオン ザ・ドラフト」―

沖縄といえばオリオンビール。そんなイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。2020年6月に主力ブランドがリニューアルされ、沖縄の大麦と水を使った「オリオン ザ・ドラフト」が誕生。開発の経緯や「オリオン ザ・ドラフト」を通して目指す資源循環型産業、地域貢献の取り組みなどについて、オリオンビール株式会社様にお話を伺いました。

※「オリオン ザ・ドラフト」はソーシャルプロダクツ・アワード2021 自由テーマ部門にて、ソーシャルプロダクツ賞を受賞しました。

(インタビュアー:APSPインターン 石原)

オリオンビール株式会社 

(画像上段)上符さま 樫原さま (画像下段)丁野さま 大嶺さま 安次嶺さま ※以下敬称略

 

 

沖縄県伊江島産大麦によって生まれた、澄みと旨みのオリオン ザ・ドラフト

石原:オリオン ザ・ドラフトの開発経緯を教えてください。

上符:基幹製品だったオリオンドラフトをリニューアルし、2020年6月にオリオン ザ・ドラフトを発売しました。

石原:そうだったんですね!なぜオリオンドラフトをリニューアルすることになったのですか。

上符:弊社ではどの商品においても徹底的にお客様の声を聴いて、商品開発を行っています。オリオンドラフトについては沖縄県と関東圏にて消費者調査を実施したのですが、すっきりして飲みやすいというイメージはあるものの、具体的な味の特徴が消費者に伝わっていないことが浮き彫りになりました。調査結果をふまえ、従来のすっきりした味わいは残しながらも麦のうまみをより感じていただける商品を目指して、研究開発を進めていきました。

石原:具体的にどのような点がリニューアルされたのでしょうか。

樫原:オリオン ザ・ドラフトでは、オリオンビールらしさ、沖縄の水と大麦を使った沖縄でしか造れないビールという点にこだわっています。水はビールの製造に適したやんばる(沖縄県北部)の軟水を使用し、大麦は沖縄県伊江島産を新たに採用しました。伊江島産は海外産に比べてたんぱく質やミネラルが多く、うま味成分がリッチな大麦です。伊江島産大麦の採用によって、すっきり飲みやすいだけでなく、麦のうま味を凝縮した味わいへと向上させることができ、オリオン ザ・ドラフトの「澄みとうま味」が実現されました。

上符:リニューアルにともない缶のパッケージも刷新しています。金色をベースとし、品質感と上質感を感じてもらえるようなデザインとなりました。また、「沖縄県伊江島産大麦使用」や「OKINAWA‘S CRAFT」といった表記を加え、地元の素材・製法にこだわった商品であることを訴求しています。2021年の2月以降製造分からは「沖縄県産素材使用」のアイコンを入れています。

 

(左)オリオン ザ・ドラフト(通常デザイン)

(右)オリオン ザ・ドラフトGACKTデザイン缶(期間限定)
沖縄への思いと循環型ビール造りへのメッセージ、
ソーシャルプロダクツ・アワードのマーク入り

 

石原:商品の中身からデザインまで、大きくリニューアルされたのですね。お客さまの反応はいかがですか。

上符:リニューアル後に沖縄県内のお客さまへ行ったインタビュー調査では、「地元のものを使っていると応援したくなる」「地産地消はいいことだ」といったお声をいただいています。私たちオリオンビールが沖縄県内産の原料を用いて商品を製造することを、好意的に受けとめていただいていると感じています。

 

オリオン ザ・ドラフトを通して目指す、資源循環型産業

石原:オリオン ザ・ドラフトの大きな特徴は、伊江島産の大麦を使用していることですよね。そもそもなぜ、伊江島産の大麦に着目されたのでしょうか。

樫原:伊江島ではもともと、弊社のビール製造過程で出る麦芽粕を小麦栽培時の堆肥として使用いただいていました。そのつながりから伊江島の農家さんと大麦の栽培にもチャレンジすることになったんです。

石原:伊江島で大麦を栽培するのは難しいのでしょうか。

樫原:大麦はどちらかと言うと緯度の高いところで育つため、沖縄のような南の地域での栽培は普通行われません。難しいチャレンジではありましたが何とか収穫に結び付けることができ、オリオン ザ・ドラフトの副原料としての採用にいたりました。
 

大麦生産者
 

石原:これまでになかった取り組みだったんですね。御社が沖縄県内産の大麦を使用することには、どのような意義があるとお考えですか。

樫原:沖縄県内産の大麦を使用した商品を製造することで、沖縄県内での地産地消、資源循環型産業の実現に貢献できると考えています。沖縄は観光を主力産業としてきましたが、コロナ渦で県外からの人の移動が制限され、大きなダメージを受けました。地産地消、沖縄県内で完結する資源循環型産業をつくることの重要性に直面した中で、オリオン ザ・ドラフトの製造は始まりました。また、沖縄の農産物はサトウキビに偏っており、サトウキビからできる黒糖は在庫が余ってしまっている状態です。そのため、大麦が沖縄の新たな農産物として広がっていけば、沖縄の農業の活性化に確実につながると思っています。

石原:伊江島以外の地域でも、沖縄県内で大麦の栽培はされていますか。

樫原:沖縄での大麦栽培を拡大するために、沖縄に適した大麦品種や、収穫量を増やすための堆肥に関する研究などを、琉球大学(2020年12月に産学連携協定締結)と一緒に行っています。現在では、南城市や名護市など、沖縄県の他の地域でも収穫が広がっています。それでもまだ、沖縄での大麦の栽培は苦労が多い現状です。このような中でも、一緒に大麦栽培へチャレンジいただける農家さんを増やし、大麦の栽培量を増やしていくことが今後の課題ですね。
 

循環型大麦の圃場と土質
 

石原:難しい状況が多い中でも、沖縄県内で大麦栽培の輪が拡大しているのですね。

上符:また、一歩前進した取り組みとして2021年7月に完全循環型の大麦を使用した「ザ・ドラフト 初仕込」を完全予約受注で発売します。
 

オリオン ザ・ドラフト 初仕込
 

樫原:これまでのオリオン ザ・ドラフトも、ビール製造過程で出た麦芽粕の堆肥で育った大麦を使用してビールを製造していました。

今回、新たに発売する「ザ・ドラフト 初仕込」は、副原料として使用している伊江島産大麦を育てる際も、同じ伊江島産大麦の麦芽粕堆肥を活用しており、伊江島での大麦栽培からオリオン ザ・ドラフトの製造にいたるまで、その資源循環が完全に一周(※)したことが特徴となっています。

※伊江島で栽培された大麦を製造に使用→製造過程で出るその麦芽粕を伊江島の土壌に堆肥として活用→新たに伊江島で栽培された大麦を製造に使用

 

沖縄と共に歩んできたオリオンビール

石原:オリオン ザ・ドラフトは「沖縄でしか作れないビール」という点にこだわっていますよね。そしてオリオンビールの商品は、沖縄現地はもちろん県外の沖縄料理屋さんなどでも、必ずと言っていいほど目にします!もともと、御社が沖縄で創業されたのにはどのような経緯があったのでしょうか。

上符:当社は1957年、沖縄の本土復帰よりも前に創業されました。当時の沖縄ではメーカーが少なく、創業者の具志堅宗精は、第二次産業を立ち上げなければ戦後復興は実現しないという思いを持っていました。

石原:メーカーとして、なぜビールの製造を選ばれたのでしょうか?

上符:具志堅宗精はそれまで、赤マルソウという味噌や醤油の製造会社を経営していました。戦後復興につながる新たな事業を考えていたところ、沖縄の産業の柱になるのはセメントとビールだと米軍の民政官だったパージャー准将から聞き、オリオンビールの設立に奮い立ったそうです。セメントは建物や道路などを建設するハード面において必要だった一方で、ビールは人々に希望と勇気を与えるというソフト面において大切だと考えたのが真意だと言われています。米軍統治下だった沖縄にとって、ビールは身近なお酒でした。沖縄の消費者は輸入ビールに慣れていたこともあり、彼等の嗜好に合わせたライトなビールを開発するに至ったとのことです。
 


石原:オリオンビール株式会社の名前の由来は何ですか。

上符:創業当時は沖縄ビール株式会社という名前でした。オリオンという名称は、1957年に2500件ほどの一般公募の中から決定されました。(詳細:オリオンビールのあゆみ

石原:創業当時から大事にされている理念はございますか。

上符:ゼロからビール工場を立ち上げ、当時は困難な状況も多々ありました。そこで、困難なこともやり遂げるという意味の理念なにくそやるぞ」が生まれました。また沖縄の地域社会の応援によってオリオンビールが設立された背景から、共存共栄」「報恩感謝」といった理念も大切にされています。

 

創業当時からこの先も、地域社会と共に生きる

石原:御社は商品の首里城デザイン缶(ラベル)を発売し、首里城再建支援をされていましたよね。具体的にはどのような支援につながったのでしょうか。

上符:首里城デザイン缶(ラベル)は、2019年から今まで2回発売しました。1缶の売上につき3円を、首里城再建の木材として不可欠な沖縄県在来種イヌマキの植樹・育樹に活用させていただいています。売上と弊社からの寄付を含めて、2年間でおよそ2000万円の支援金となりました。

首里城再建支援デザイン缶(ラベル)

石原:御社が行っている地域貢献活動は他にどのようなものがございますか。

上符:沖縄県内の子供や女性の教育支援の企画、持続可能な商品製造に向けたゼロエミッション(廃棄ゴミゼロ)、沖縄のきれいな海を守る活動など、多岐にわたっています。活動は弊社だけで行っているわけではなく、産学官で力を合わせています

樫原:最近の事例としては、JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)が開始した共創の場形成支援プログラムの育成型に、弊社が参画する産学官連携研究プロジェクトが採択されました。これは九州沖縄地方で唯一選ばれたプロジェクトです。麦芽粕を餌にしてヤイトハタという魚を陸上で養殖する、沖縄の海を守る活動です。

石原:御社の事業や活動の根底には、地域社会との強い結びつきがあるのですね。

上符:はい、弊社は創業当時より地域社会への貢献を重視してきました。私たちの事業や活動の結果として沖縄が元気になり、沖縄と一緒に弊社も発展していくことを目指しています。

石原:この度は貴重なお話をありがとうございました。

 
 
 

【取材を終えて】

沖縄で長きにわたって愛されてきたオリオンビール。創業当時から「沖縄のために何ができるか」を考えて、事業や社会貢献活動を行われてきたことに感銘を受けました。オリオン ザ・ドラフトのように沖縄でしか作れない商品など、資源循環型産業の実現に向けた取り組みの今後の進展にわくわくしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この企業について

オリオンビール株式会社

沖縄県豊見城市字豊崎1-411 トミトン内2階

https://www.orionbeer.co.jp/

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