【コラム】社会的課題は「生活者起点」で解決せよ~「アウトサイド・イン」でも「インサイド・アウト」でもSDGsは達成できない?!~

2020/06/16

【コラム】社会的課題は「生活者起点」で解決せよ~「アウトサイド・イン」でも「インサイド・アウト」でもSDGsは達成できない?!~

社会的課題は「生活者起点」で解決せよ

~「アウトサイド・イン」でも「インサイド・アウト」でもSDGsは達成できない?!~

【目次】

・SDGs前後における社会的意識・行動の推移

・生活者と企業におけるSDGs浸透のギャップ

・SDGs達成に向けたアプローチ「アウトサイド・イン」と「インサイド・アウト」の落とし穴

・生活者のSDGsに対する興味・関心は強い?!

・生活者の購入行動に見るソーシャルプロダクツ別の攻略ポイント

・コロナ禍において、企業がSDGsで競争優位を構築するための指針


 

SDGs前後における社会的意識・行動の推移

SDGs(持続可能な開発目標)が採択されてから、もうすぐ5年が経とうとしています。この間、生活者の社会的意識・行動の水準は、どのように推移したのでしょうか。ソーシャルプロダクツ普及推進協会(APSP)がSoooooS.カンパニーと合同で継続的に実施している「生活者の社会的意識・行動に関する調査」から読み解いていきましょう。

図表1は、SDGsが採択される前年の2014年から2019年までの「フェアトレード商品」「エコ商品」「オーガニック商品」における購入率と購入意向の推移です。「フェアトレード商品」を見ると、購入意向は、2015年に約40%まで上がりましたが、2019年までにほぼ半減しています。購入率は、6~11%の間でほとんど横ばい状態です。「エコ商品」を見ると、SDGs採択以前は購入率が購入意向を上回る高水準であったのに対し、2015年以降に2014年の37.0%を上回る年はありません。「オーガニック商品」を見ると、「フェアトレード商品」と同様に、2015年に約40%まで上がった購入意向が2019年にはほぼ半減しています。購入水準は、15~21%の間でほとんど横ばい状態です。

 

図表1:「フェアトレード商品」「エコ商品」「オーガニック商品」における購入率と購入意向の推移

出所:APSP/SoooooS.(2014~2017;2019)「生活者の社会的意識・行動に関する調査」

 

調査年度やジャンルごとに違いはあるものの、概観するとSDGs採択以降、代表的なソーシャルプロダクツに関する意識(購入意向)・行動(購入率)の水準は、高まっていません。「生活者の社会的意識・行動に関する調査」では、他にも「寄付」や「ボランティア」、「地域や伝統に根差した商品」などの意識と行動の水準も定点観測していますが、SDGs採択以降、大きく高まったものはありませんでした。

 

生活者と企業におけるSDGs浸透のギャップ

上記は、それほど意外な結果ではありません。なぜなら、生活者にSDGsはそれほど浸透していないからです。第7回(2019年)の調査結果では、SDGsの達成につながる商品がどういうものか知っている人の割合が15%にも達しませんでした(図表2参照)。

 

図表2:生活者におけるSDGsの認知度

出所:APSP/SoooooS.(2019)「第7回 生活者の社会的意識・行動に関する調査」

 

一方、ビジネスの世界では、SDGsが浸透してきているようです。KPMGジャパン社が先月公表した「日本におけるサステナビリティ報告2019」によれば、2020年1月の時点で日経225の構成銘柄となっている225社の内、218社(97%)がサステナビリティに関する取り組みについて何らかの形で報告しており、150社(69%)がSDGsに対する貢献まで説明しています。

 

SDGs達成に向けたアプローチ「アウトサイド・イン」と「インサイド・アウト」の落とし穴

企業と生活者のSDGs浸透にギャップがある状況では、本業を通して社会的課題に取り組む上での代表的なアプローチである「アウトサイド・イン」と「インサイド・アウト」に潜む落とし穴に気を付けなければいけません。

「アウトサイド・イン」と「インサイド・アウト」は、GRI(グローバル・レポーティング・イニシアチブ)とUNGC(国連グローバル・コンパクト)、WBCSD(持続可能な発展のための世界経済人会議)が発行したSDGsの企業行動指針である「SDG Compass」や、経営戦略論で有名なマイケル・ポーター教授が提唱した社会的課題の解決を通して競争優位を構築するための理論である「CSV(共通価値の戦略)」の中で、その重要性が指摘されています。

「アウトサイド・イン」とは、「社会起点」による本業で社会的課題を解決するアプローチです。企業が地域社会やステークホルダーを悩ます社会的課題にまず目を向け、それらを解決しうる事業や商品・サービスを開発することを指します(図表3参照)。例えば、「ソーシャルプロダクツ・アワード2020」で生活者審査員賞を受賞した「FOOD TEXTILE」プロジェクトがこれに該当します。同プロジェクトは、食品ロスという社会的課題を繊維専門商社の豊島社ならではのアプローチで解決するべく、食品残渣(加工時に発生してしまう廃棄部分)を活用してファッションアイテムの染色をする取り組みです。

「インサイド・アウト」とは、「企業起点」による本業で社会的課題を解決するアプローチです。企業が保有する経営資源や現行の事業目標をベースとして、解決しうる社会的課題に取り組むことを指します(図表3参照)。例えば、「ソーシャルプロダクツ・アワード2015」で生活者審査員賞を受賞した「オーラルピース」がこれに該当します。同商品は、乳酸菌がつくりだす新たな抗菌剤「高精製ナイシン」という新技術をベースに開発された、高齢者や障害者のための(飲み込んでしまっても)安全な口腔ケア商品です。

 

図表3:「アウトサイド・イン」と「インサイド・アウト」

出所:GRI・UNGC・WBCSD(2016 日本語訳 p.19)「SDGs Compass」

 

「アウトサイド・イン」と「インサイド・アウト」に共通する特徴は、起点が社会であっても企業であっても、最終的には「事業と関連の強い」社会的課題に取り組むことを促す点です。ここに落とし穴が潜んでいます。それは、事業と関連の強い社会的課題が、必ずしも「商品・サービスのターゲットである生活者にとって興味・関心が強いものとは限らない」ことです。

どんなに社会的課題の解決に貢献する商品・サービスであっても、ターゲットに受け入れられなければ、事業が持続可能な発展を遂げることは叶いません。前述したように、生活者の社会的意識・行動の水準は決して高くないのです。そうした現状の中、企業がSDGsを達成するためには、事業との関連よりも、「ターゲットとする生活者がより興味・関心の強い社会的課題」の解決に取り組み、その内容をコミュニケーションし、市場に浸透させることを第1の指針とするべきではないでしょうか。このように「生活者起点」でSDGsや社会的課題に取り組むことを以降、「コンシューマー・アプローチ」と称します。

 

生活者のSDGsに対する興味・関心は強い?!

「コンシューマー・アプローチ」の前提として重要な点は、①生活者はSDGsを知らないだけで興味・関心はある点と、②興味・関心の対象が生活者の属性ごとに異なる点です。

第7回(2019年)の調査結果では、①について、SDGsを説明した上で、目標ごとの興味・関心を質問したところ、61.6%の生活者が何かしらの目標に興味・関心をもっていることが分かりました。②について、生活者の全体的な傾向を見ると、「13番:気候変動に具体的な対策を」「3番:すべての人に健康と福祉を」といった国・地域を問わず普遍的な問題に関連するターゲットを多く含む目標に興味・関心がある生活者が多いです。しかし、例えば若者(10-20代)にフォーカスすると、「1番:貧困をなくそう」「6番:安全な水とトイレを世界中に」といった発展途上国の課題に関連するターゲットを多く含む目標への興味・関心が強いことが明らかになりました。(図表4参照)

 

図表4:生活者のSDGsに対する興味・関心

出所:APSP/SoooooS.(2019)「第7回 生活者の社会的意識・行動に関する調査」

 

この結果をアパレル業界に応用してみましょう。同業界では、発展途上国の生産者に対する配慮や自然資源・生態系の保護などが課題となっています。ターゲット層が広いファストファッションブランドの場合は、生産過程でのCO2を削減したり、原材料にオーガニックコットンを採用して生産者や使用者にやさしいイメージをアピールしたりすると、どの世代にも満遍なく興味・関心を持ってもらえそうです。一方、若者(10-20代)をターゲットとするブランドの場合は、原材料をフェアトレードで調達したり、水の使用量削減を積極的にアピールしたりする方が、興味・関心を持ってもらえる可能性が上がります。

SDGsを商品・サービス展開の武器にするには、ターゲットとなる生活者を起点にした社会的取り組みとコミュニケーションの積極的な展開が重要なのです。

 

生活者の購入行動に見るソーシャルプロダクツ別の攻略ポイント

第8回(2019年)の調査結果では、「フェアトレード商品」「エコ商品」「オーガニック商品」の購入経験がある生活者へのインタビュー調査から、購入のキッカケや動機付けはそれぞれ異なることが分かりました。図表5は、ジャンル別に購入を促進するポイントをまとめたものです。

 

図表5:「フェアトレード商品」「エコ商品」「オーガニック商品」の購入を促進するポイント

※具体的なインタビュー内容やその考察はコチラをご参照ください。

 

「フェアトレード商品」のポイントは、障害者支援や復興支援など、人に対する配慮をともなう商品・サービスすべてに応用できる可能性があります。「エコ商品」のポイントは、自然資源の保護やアニマルウェルフェアなど地球や自然に対する配慮をともなうすべての商品・サービスで活用できるかもしれません。「オーガニック商品」のポイントからは、人や地球に対する配慮のコミュニケーションをより積極的に展開するべきという示唆が得られました。

 

コロナ禍において、企業がSDGsで競争優位を構築するための指針

今回ご紹介したアンケートとインタビュー調査から、SDGsで競争優位を構築するには「コンシューマー・アプローチ」、すなわちターゲットとなる生活者を起点にした社会的取り組みとコミュニケーションの積極的な展開が重要であると分かりました。

その重要性は今後、ますます高まることが予想されます。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大は、私たち一人ひとりの意識・行動が社会全体に影響を及ぼすことを浮き彫りにしました。生活者はより一層、自分や身の回りの文脈で社会との関わりを模索していくでしょう。生活者に寄り添って社会との新たな関係を提案することこそ、企業が事業や商品・サービスを通してSDGsを達成する指針となるのです。

 

一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会

研究員 樋口晃太

 

【参考文献】

・GRI & UNGC & WBCSD(2016 日本語訳)「SDGs Compass」(https://sdgcompass.org/wp-content/uploads/2016/04/SDG_Compass_Japanese.pdf

・KPMGジャパン(2020)「日本におけるサステナビリティ報告2019」(https://home.kpmg/jp/ja/home/insights/2020/05/sustainability-report-survey-2019.html)

・Porter, M. E. & Kramer, M. R.(2011)"Creating Shared Value:How to Reinvent Capitalism-and Unleash a Wave of Innovation and Growth." Harvard Business Review, January.(DHBR編集部訳「共通価値の戦略」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2011年6月号、pp.8-31)

・APSP & SoooooS.(2014;2015;2016;2017;2019)「生活者の社会的意識・行動に関する調査」

2014年: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000004647.html

2015年: https://www.atpress.ne.jp/news/63217

2016年: https://www.atpress.ne.jp/news/100738

2017年: https://www.atpress.ne.jp/news/128586

2019年: https://www.atpress.ne.jp/news/204171 https://www.atpress.ne.jp/news/214498

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