ソーシャルプロダクツ・インタビュー<br>―株式会社シマノ「ライフ・クリエーション・スペース OVE」―

2018/12/25

ソーシャルプロダクツ・インタビュー
―株式会社シマノ「ライフ・クリエーション・スペース OVE」―

「ライフ・クリエーション・スペース OVE」(東京都港区)は、Opportunity【機会】、Value【価値】、Ease【気軽さ】がコンセプトの、健康的なライフスタイルを提案するショップです。自転車部品メーカーの株式会社シマノが運営しています。店内は、自転車をとめておくことも可能で、カフェでは契約農家さんから届いた新鮮な食材を使ったランチメニューが人気です。その他、セレクト商品や音楽、アートイベントなど、価値あるモノ・コトに触れて、体験できる機会にあふれています。そして、食や風景、歴史や伝統など地域の魅力を発見しながら、散歩感覚でゆっくりと自転車でめぐる新しい自転車の愉しみ方が提案されています。なぜ、自転車部品メーカーのシマノが、OVEを展開しているのでしょうか。今回は、OVEの立ち上げ経緯や本業とのかかわり、産学連携で「散走」を拡大する取り組みなどについて、OVEマネージャーの室谷恵美様に具体的なお話を伺いました。

OVEマネージャー:室谷 恵美 様

 

―まずは、OVEの立ち上げ経緯を、本業とのかかわりも含めて教えてください。

1970年代にアメリカで生まれたマウンテンバイクは、その後世界的なムーブメントとなりスポーツバイク市場を大きく成長させました。シマノは、このマウンテンバイクによる市場拡大を一過性のブームで終わらせないために、どうしたらもっと多くの人々に自転車の魅力を広げていけるかを模索します。そして、21世紀に時代が変わろうとしていたころ、それまでの効率重視、スピード重視の社会のありかたや人々の生き方に疑問が呈され環境、健康、持続性といったことが議論されてきました。そんな中、自転車が一人ひとりにとってもっと健康的で魅力的なライフスタイルを創造できるはずと考えたのです。そんな問題意識を背景に始めたプロジェクトが「ライフ・クリエーション・スペース OVE」でした。

OVEでは、普段はそれほど自転車に親しんでいない層に対して、健康的なライフスタイルとして、価値ある自転車の魅力を伝えることを大切にしています。すなわち、「自転車のある暮らし」を提案することで、自転車市場、ひいては自転車文化を創造しているのです。具体的には、「お腹を満たしながら、こころも満たす、そんな時間をお届けしたい。」という想いからカフェスタイルを取っており、音楽や文化交流イベントやワークショップ、ソーシャルプロダクツのセレクト商品など、暮らしを豊かにする様々な企画も開催しています。

OVE 店内

 

―素敵な場所ですね。自転車への導線もあるのでしょうか?

OVEでは、「散走」イベントを定期的に開催しており、好評を博しています。「散走」とは、散歩のようにゆっくり自転車で地域をめぐりながら、その土地の伝統や歴史、食、文化、自然など価値あるモノ・コトに触れて、様々な出会いや発見を愉しむ遊びです。自転車でどこかに行くことを目的にするだけでなく、目線を変えてその道のりを愉しみます。週末や会社帰りに知らない町をめぐってみたり、季節ごとの景観をながめるために遠回りしたりすることなども「散走」の1つです。

OVEが企画する「散走」には、例えば、JAZZボーカリストの方とアルバムの楽曲にちなんだ土地をめぐる散走や、カメラマンの方に写真の撮り方を学びながら被写体をめぐる散走など、様々な種類がありますが、誰かと行く「散走」もあれば、一人ひとりの中にも「散走」があると思っています。

OVEの活動に共感して、「散走」という新しい自転車の愉しみ方を実践する拠点も生まれてきました。最近では、岡山県真庭市や瀬戸内しまなみ海道など、地方にも「散走」文化が広まりつつあり、全国にネットワークが拡大しています。

「散走」イベントの様子

 

産学連携で「散走」を拡大する取り組みも展開されているそうですね。

2016年から2019年にかけて、ソーシャルプロダクツ普及推進協会(APSP)と共催で「ソーシャル散走」企画コンテストを開催しました。当コンテストは、ソーシャルプロダクツやそれを生み出す企業、地域の歴史や背景などに触れながら、気軽に楽しく、その魅力に気づいてもらうことを目的としており、「ソーシャルな商品や企業、地域」と「散走」を掛け合わせた散走プログラム(ソーシャル散走)を大学生に立案してもらいます。18年度は、法政大学・中央大学のソーシャルイノベーション・ソーシャルマーケティングを研究されている複数のゼミにご参加いただきました。

今回、最優秀賞に輝いたプランは、夏休みに親子で小田原周辺の林道や木工所、カフェなどをめぐりながら、間伐材を活用した商品に触れたり、実際に木のおもちゃを製作したりする「木育」をテーマにした散走です。他にも、フードロスの啓発を目的とした散走や、地域産業やコミュニティの活性化を見据えた散走など、非常にレベルの高いプランばかりで、とても有意義なコンテストとなりました。入賞プランは今後、実現に向けて企画を進めていく予定です。

「ソーシャル散走」企画コンテスト 最終審査会の様子

 

―なぜ、「散走」にソーシャルな要素を掛け合わせた「ソーシャル散走」をテーマに設定したのですか?

そもそも、自転車はソーシャルプロダクツに他ならないと考えています。健康増進や観光産業・地域の活性化に寄与しますし、排気ガスなどの環境負荷が発生しないからです。したがって、ソーシャルな意識が高い生活者と自転車に関心をもつ生活者は、重なり合うこともあり得るのではないかと考えました。また、ソーシャルプロダクツがもつ地域や人とのつながりといったストーリーを自転車でめぐることは、「散走」のコンセプトに合致しますし、ソーシャルプロダクツの魅力を存分に味わうことが出来ます。「ソーシャル散走」は、自転車文化の創造とソーシャルプロダクツの普及推進に相乗効果をもたらす可能性があるのです。

そしてなにより、若者が自転車やソーシャルプロダクツに親しむキッカケの創出としても意義があると思います。今後も学生たちの斬新な発想を借りながら、「散走」を盛り上げていきたいです。

 

非常に興味深い視点ですね。では、最後に今後の展望・課題を教えてください。

「散走」を真の意味で拡大していくために様々な施策を展開しています。「散走」は自転車の愉しみ方のスタイルですので、地域や人によってそれぞれの形があって良いのです。しかし、一部にはOVEに連れて行ってもらう観光プランといった捉え方もされているのが現実です。そこで今後は、「散走」を各々の視点・価値観から創り出し、周りに広めてくれる主体の育成に力をいれていきたいと考えています。「ソーシャル散走」企画コンテストもその1つです。他にも、①「散走」アンバサダーの養成と、②「散走」拠点の拡大に取り組んでいます。

➀お客様の中には、何度も「散走」にご参加いただいている方々も多数いらっしゃいます。そのようなファンの方々に「散走」の魅力を伝えるアンバサダーになってもらう取り組みを展開しています。具体的には、散走経験者にあらかじめコースを考えていただき、散走レクチャーなどを受講した他の参加者と一緒にそのコースをめぐった後、振り返りをする「散走アンバサダー養成」講座を堺市で行いました。経験者がコース設計について様々な気づきを得ることのみならず、参加者も「自分だったらこんな場所にも行きたい」とインスパイアされるなど、非常に手ごたえのある企画となりました。

➁OVEの考え方に共感し、「散走」を一緒に拡大してくれる拠点を増やしていくために、地域フェアや交流会、地域向けの散走レクチャー/ワークショップなどを開催しています。地域がその土地の魅力をめぐる「散走」を創り出し、OVEが「散走」を切り口に地域の情報を発信する拠点となれば、生活者にその地域を自転車でめぐるキッカケを提供することが出来ます。先日も、しまなみの島々で暮らす人々や食を紹介するフェア「Shimanami Perspectives ─旅するしまなみ|笑顔の島々」を実施しましたが、大好評でした。

OVEは今後も、お客様や地域の方々と共に「散走」を拡大しながら、自転車文化を創造していく所存です。

ありがとうございました。

 

【参考】

OVE オフィシャルサイト

この企業について

株式会社シマノ

大阪府堺市堺区老松町3丁77番地

https://www.shimano.com

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